今、現在、「法制審議会-新時代の刑事司法制度特別部会」において刑事司法手続きのあり方について審議されています。
このような審議会方式は最初から御用学者などを集めて政府に都合のよい答申を出させるための仕組みですが、ここでも極めて捜査当局に都合のよい答申が出されようとしています。
2013年1月25日に「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」(
PDF)が公表されました。
ここには取り調べの可視化については、捜査当局の事実上の裁量を認めるような骨抜きのものとなり、他方で通信傍受の対象拡大や司法取引、被告人の虚偽供述の禁止など捜査当局に有利になるものばかりが並びました。
そして、その基本構想を元に審議が行われた結果、出されたのが本年4月30日の「事務当局試案」(
PDF)です。
ここで出された主な内容は以下のとおりです。
1 取調べの録音・録画制度 A案 裁判員制度対象事件を対象事件とする。 B案 裁判員制度対象事件に加え、それ以外の全身柄事件における検察官の取調べも対象に含める。 2 司法取引 ⑴ 捜査・公判協力型協議・合意制度 ⑵ 刑事免責制度 3 通信傍受の合理化・効率化 ⑴ 対象犯罪の拡大 ⑵ 特別の機能を有する再生・記録装置を用いる傍受 ⑶ 通信事業者等の施設における通信内容の一時記録を伴う傍受 4 被疑者国選弁護制度の拡充 5 証拠開示等 ⑴ 証拠の一覧表の交付制度 ⑵ 公判前整理手続の請求権 ⑶ 類型証拠開示の対象拡大 6 証人の保護 ⑴ ビデオリンク方式による証人尋問の拡充 ⑵ 証人の氏名及び住居の開示に係る措置(非開示の制度化) ⑶ 公開の法廷における証人の氏名等の秘匿 7 被告人の虚偽供述の禁止 |
これによって日弁連執行部からは、いよいよ取り調べの可視化の義務化が実現できるということが宣伝されるようになりました。
そして、今、日弁連執行部は、この事務当局試案に対し、一括して「賛成」を表明しようとしているのです。
ところがその中には従来より反対を表明し続けてきた通信傍受の対象拡大も含まれていますが、何故か日弁連執行部がこのような問題のある通信傍受の対象拡大にまで賛成しようとしているのです。日弁連執行部は狂ったとしか言いようがありません。
経緯からいえば、5月7日から9日かけて行われた日弁連理事会では、執行部が事務当局試案への対応に対する批判が多数出され、日弁連執行部は6月19日の理事会で再度議論するために単位会に持ち帰って検討してくるように述べていました。結論は6月19日の理事会に持ち越されるはずでした。この時点では未だ日弁連の正式な機関での承認手続きはありません。
むしろ、通信傍受の対象拡大に反対する意見などが昨年1月に理事会で承認されています。
「
新たな刑事司法制度の構築に関する意見書(その4)」(2013年1月17日)
それにも関わらず通信傍受の対象拡大するような事務当局試案に賛成するためには日弁連執行部は理事会の承認を得なければならいのは当然のことです。
理事からの批判が多数、出たことから、急きょ、日弁連執行部は、6月6日、日弁連の方針(案)を次期理事会の議題として提案してきました。
「承認・執行前につき取り扱い注意」とあるので、一応、ここでは本文そのものは掲載しませんが、要するに日弁連執行部に最終判断権を委ねることを承認せよ、というのです。
この意味するところは自ずと明らかです。
日弁連執行部は、事務当局試案に賛成したいのです。
日弁連執行部が繰り返し、述べてきたことは、ここで事務当局試案に対し、日弁連が反対すれば、長年の悲願であった取り調べの可視化が頓挫しかねないというものです。
しかしながら、審議会内部には、弁護士の幹事(日弁連枠と思われます)、委員がいますが、それら幹事、委員がこぞって反対したとしても、最初から数で負ける審議会ですから、体制に影響は全くないのです。
それにも関わらず、日弁連執行部がこのようなデタラメな根拠を主張して事務当局試案に賛成したいのは、法務省(検察庁)との間で、バーターが成立しているからです。要は裏取引です。
そのような裏取引を示す事情は、マスコミ報道から漏れ伝わってきます。
朝日新聞2014年2月15日付では、日弁連側から取調べの可視化については警察を除外することを提案した報じられています。
「警察の可視化除外案 日弁連、導入急ぎ検察を先行」
この日弁連の提案も会員には知らされないまま独断専行され、報道によって知り得たものですが、日弁連執行部は少なくともこの時点でバーターを考えていたことは明らかです。
「
日本弁護士連合会(日弁連)は14日、対象から警察の取り調べを暫定的に除外し、検察の取り調べを先行させる案を示した。捜査機関側の慎重姿勢で、「法制化が前に進まない」との危機感が背景にある。」と指摘されています。
そうしているうちに何と、産経新聞が「
通信傍受捜査の対象犯罪、拡大が確実に 法制審」(2014年6月12日)と報じました。
「
捜査と裁判手続きの改革を議論する法制審議会(法相の諮問機関)の刑事司法制度特別部会が12日開かれ、法務省が前回示した試案に基づき、電話やメールを傍受する盗聴捜査ができる対象犯罪の範囲の拡大などについて議論された。これまで拡大に反対していた弁護士会側の委員が、振り込め詐欺と組織的窃盗犯罪に限る形で対象拡大を容認したため、改革案に対象犯罪増が盛り込まれることは確実とみられる。」
「弁護士会側の委員」が通信傍受の対象の拡大に「限定」付で容認したと報じられているのです。
この「弁護士会側の委員」が誰なのか。
翌日の6月13日付朝日新聞では、次のように報じています。
「
通信傍受の対象拡大へ 詐欺、傷害など10種類追加」
「日本弁護士連合会副会長の神洋明幹事も、「振り込め詐欺や外国人窃盗団のような組織窃盗以外への拡大には反対だ」とされており、要は限定であれば容認という姿勢を示したということなのです。
日弁連副会長たるものが独自の見解を審議会で述べてくるはずもなく、日弁連執行部のゴーサイン(了承)がなければなしえないことです。
要は6月19日に始まる日弁連理事会を前に日弁連執行部は、事務当局試案に賛成するという既成事実を作り上げてしまったのです。
日弁連たるものがこのような暴挙を行ったのです。既成事実を作り上げることによって反対する理事たちを屈服させようというのです。
このような日弁連執行部が、先の方針(案)が取り扱い注意などとよくも言えたものです。
しかも、
日弁連執行部が独断専行によって得ようとした取り調べの可視化も実はザルであり、ほとんど実効性のないものです。
前述したとおり、事務当局試案は捜査当局の事実上の裁量を認めており、他方で、実は検察庁は先行して可視化を実施する段取りを表明していました。
「
「裁判で戦うため」検察、取り調べ可視化拡大へ」(読売新聞2014年6月7日付)
「
可視化拡大のきっかけの一つは、可視化の制度設計を検討している法制審議会特別部会での議論。今年3月の会合で、最高裁の委員が、容疑者の供述がカギとなる事件を想定した上で、「可視化していなければ、供述の証拠能力について、検察に今より重い立証責任が負わされる」と指摘した。」
既に検察庁では、骨抜き可視化を具体化する段取りをしているのです。しかも、
検察当局に有利に働くようにするための可視化としてです。
これで本当に日弁連執行部のいうバーターになるのでしょうか。
前掲朝日新聞の記事によれば通信傍受の対象の拡大は10種類も追加になるというのです。そのようなものを日弁連執行部が賛成するのか反対するのかが問われているのですが、神日弁連副会長は、批判しているようですが、最終的には賛成するものと思われます。なぜなら、これまで日弁連執行部は、あくまで今、この事務当局試案に反対すれば可視化が頓挫するということを根拠にし、しかも当時の「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」からほとんど前進の見られない可視化案でありながら、法務省(検察庁)とバーターという密約を結んでいることから、既に「賛成」という選択肢しか残っていないからです。
これだけザルの可視化で日弁連執行部は妥協し、他方で通信傍受などの捜査当局の権限の拡大を認めるのですから、批判が起きて当然です。
朝日新聞は、「
全事件の可視化「日弁連主張を」冤罪被害者ら要請」(朝日新聞2014年6月14日)と報じています。
「
刑事司法改革の議論の柱となっている取り調べの録音・録画(可視化)について、冤罪(えんざい)事件の被害者らが13日、日本弁護士連合会を訪れて「全事件・全過程の可視化」を強く主張するように要請した。日弁連は冤罪被害者らとともに全面可視化を訴えてきたが、「妥協案」にも理解を示しているため、異例の批判となった」
当たり前のことです。
冤罪被害者たちにとっては日弁連の対応は裏切りにしか見えません。
日弁連執行部が権力に擦り寄り、刑事司法制度改悪に加担した汚点は将来に渡って消えることはありません。
参考
「
インチキ可視化と引換に日弁連執行部が盗聴拡大を丸呑み! 日弁連執行部の裏切りと屈服を許すな! 」(ろーやーずくらぶ 増田尚弁護士のブログ)
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