交際中のトラブルで殺人？ この「トラブル」って何？ ストーカーは精神疾患として治療の対象とすべき

　先日も元交際相手の男から女性が殺されるという事件がありました。
　このような事件で、まずもって私が気になるのは、マスコミ報道が「交際をめぐるトラブル」と表現することです。
　例えば、
　「岩手県奥州市のホテルで５日夜、女性が首にタオルが巻かれ死亡していた事件で、女性は元交際相手の男から繰り返し送られてくるメールに「気持ちが悪い」と話していたことが県警への取材で分かった。県警は２人の間に何らかのトラブルがあったとみており、殺人事件とみて調べている。」（朝日新聞2014年9月7日）
　「交際トラブル　相談倍増」（東京新聞2014年7月23日）

　この場合の「トラブル」とはどういう意味で用いられているのでしょうか。
　トラブルの言葉としての意味は、いざこざ、厄介なことというものですが、新聞報道のされ方としての語感としては前者でしょう。

　しかし、元交際相手による殺人事件は、「トラブル」という問題ではありません。
　どの事件でも共通しているのは、一方の側（多くは女性側）が別れを告げていることです。ストーカー絡みの殺人事件では、ほぼ全てと言って良いと思いますが、女性側が被害者となっており、この場合には女性側から別れを告げているということになります。
　男女間の交際は、一方が別れを告げれば、即、終了するものです。そこには相手の同意（承諾）は必要ありません。
　その別れを告げられたことに相手が納得しているかどうかなどはおおよそ問題にはなり得ないものです。
　もちろん事情によっては金銭賠償の問題になることはあります。婚約破棄であったり、一方が他方をもてあそぶためだけに利用していたような場合です。
　しかし、交際を終了させることは無理由でできることであり、それだけのことです。
　もちろん、理由を説明した方がいい場合もあるでしょうが、どのみち、納得しない相手であれば何を説明しても無駄です。
　また告げ方に納得できないなどという言い方がされることもありますが、言い方など問題はありません。メールだって構わないし、親が代わって告げることも問題はありません。
　会って言わなければならない道理もありません。むしろ、その相手としては、会ってもくれなかったという現実を認めるべきでしょう。

　もとより、別れを告げられたとしても復縁はあり得るところです。あるいは、別れを告げた側も心が揺れていることがあるかもしれません。グレーの部分はあります。

　しかし、真実、別れを告げていることが本意であれば、その時点で終了することは絶対であり、仮に告知された側にとって真意が不確かであれば、許されるのはそれを確認するためのやり取りであって、先方がそれにすら応じないということであれば、それまでなのです。

　さて、このように別れを告げられた後の交際を巡る「トラブル」など存在し得ないのです。
　あくまで一方的な復縁を求める言動に過ぎず、それ自体が迷惑行為であり、要件を満たせばストーカー行為（犯罪行為）でしかありません。
　マスコミが多様する「トラブル」という表現は、このような実態をぼかしてしまいます。

　このストーカーの問題は、精神疾患の問題と理解すべきです。
　例えば、ストーカー事件で被害者が死亡した事件であれば、出所後、その被害者につきまとうということはできません。
　しかし、殺人未遂だったらどうか。出所後には、その被害者は再び狙われるでしょう。少なくとも、被害者は、ストーカー犯人の出所後は、まくらを高くして眠れません。
　昨今は、個人情報の保護が言われるようになり、ストーカー被害を受けているような場合には、住民票の開示が制限されていますが、これも絶対ではありません。現実に漏れています。結局、住民票の開示制限だけでは安心できないということでもあります。
「ＤＶ、ストーカー被害者の住民票開示問題で「責任者」指定へ、姫路市などでミス後絶たず」（産経2014年7月14日）
　また、そればかりではなく、元いたところからの転居は必須になります。

　しかし、何故、被害者が逃げ隠れしなければならないのでしょうか。ここに根本的な疑問が生じます。
　極端な話をすれば、仮に殺人既遂であったとしても出所後、同じ行為を別の女性に繰り返さない保障はありません。
　刑務所では基本的には労役であり、このような精神的な治癒を目的とはしていません。

　もちろん現行法上、犯罪を犯すかもしれないということだけで身柄を拘束する予防拘禁は認めらていませんし、今後もそれが認められるる可能性はありませんし、認めてはいけません。

　しかし、他者を傷つける可能性がある場合はどうでしょうか。
　ストーカー殺人は許し難いと思うけれども、私は治療の対象ではないかと思います。
「ストーカー犯罪阻止へ始動した加害者治療　再犯防止に効果も…強制できず医師も不足」（産経2014年2月22日）

　ストーカー殺人は、現代特有の病としか思えません。この点は専門家ではないので、一定の現象面からの推測になりますが、過去にはこのようなストーカー絡みの殺人事件が今ほど起きていたとは思えません。
　この原因は次のようなことが考えれます。
①人間関係が希薄になり、自分の立ち位置がなくなっていること。
　その背景にはインターネットの普及も否定し得ない。
　出会い自体がインターネットになっていること。
②働かなくても生活できる、車が大衆化し、普通に持てる。
　昔であれば自分の生活を支えなければならず、1人の女性につきまとえるほどのゆとりはありません。移動手段としての車は結構、利用されています。

　②はストーカー行為ができる前提ですが、①こそがストーカーを生み出す社会的土壌です。
　社会によって生み出されたストーカーですが、当人自身も変わらなければなりません。
　このような意味では、ストーカーのみならず、秋葉原で大量殺人を犯した事件、池田小で小学生を何人も殺害した事件も共通項はあります。
　社会全体に閉塞感と人を孤独に追いやるという匿名社会の出現の中で、誰もが居場所を失い、孤独の中に追いやられ、第二、第三のストーカーが必然的に生まれてきます。
　そのための対策が、ひたすらに被害者の情報を隠し、被害者が隠れるように生きていくということなのでしょうか。
　それは明らかにおかしい。
　警察の警告によって７～８割はおとしなくなるようですが、残りが不明であり、恐らく一定の割合で逆上する人たちがいるという傾向は、相当に病んだ社会であり、病んだ人が少なくないということを示しています。
　現状では、この治療抜きにしては、人々の最低限の生命の安全は保障されないでしょう。
　もとより、治療以外の方法があれば、その方法にもよりますが、検討すべきことになりますし、何よりもこの閉鎖的な社会こそ変わらなければなりません。

参照
「飲酒、携帯しながらの運転が危険運転ではない？　スマホ中毒を社会問題として考えよう」


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