我が物顔の人から受ける不快感と権力の介入 全盲の女子高生を非難する声

　先日、「近所とどう付き合うか、騒音などの問題」について書きましたが、先般、非常にショッキングな事件がありました。
　全盲の女子高生が、男に蹴られて傷害を負ったという事件です。
　事件の概要としては、全盲の女子高生が杖を使って歩いていたところ、その杖に躓いた、その報復として、その男がその女子高生を蹴ったというものです。

　これが事実であれば、最悪という状況です。自分が前をよく見て歩いていなかっただけです。
　目が見えない、だから杖を使って歩く先に障害物がないかどうかを確認するのですから、必要不可欠な歩行道具です。
　周囲がそれに対して配慮こそすれ、それを邪魔に思うこと自体が明らかに誤りであり、それに躓いて自分が転んだとしても謝罪すべきは、その杖に躓いた方です。
　もっとも報道によれば、その男は、知的障害があるというものもありました。
　そうなってくると、事情は全く異なってきます。是非の弁別も理解しえない可能性は充分にあるからです。

　しかし他方で、報道によれば、その全盲の女子高生こそ謝罪すべきだなどというとんでもない意見がネット上で散見されるというもので、本末転倒も甚だしいというべきです。
　歩行道具にぶつかったとういことは、その全盲の女子高生の身体の一部にぶつかったのと同じこと。
　まさか全盲の女子高生が急ぎ足で歩いていたとか、走っていたとかではないでしょうに。普通にゆっくりと杖を使って歩いていたのであれば、100％、そこにぶつかっていた方が悪い。ネット上では、この女子高生が一言、ごめんなさいとか配慮のあることを言え、というもののようですが、目の前で何が起きているのかわからないのに謝れとは驚きです。
　この男はともかくとして、この男に共感するような輩が身近にいるということなると、本当に不快な世の中という感じです。

　世の中には、道を歩いていると自分でも時折、経験したことがありますが、どけどけという歩き方をしている人との遭遇です。一度や二度ではありません。駅中とか歩行者が多いとおりでは、急いでいる人もいれば、ゆっくりと歩いている人もいます。
　急いでいない人もできれば、駅中ですから急いでいる人もいるという配慮は欲しいところですが、逆に急いでいる人も自分以外には急いでいない人もいるくらいの配慮は欲しいもの。
　しかし、そうではなく、自分の進路は一切、譲らない、それでいてぶつかりそうになると文句を言ってくる人と遭遇したのです。それも複数回ありました。
　まさにどけどけという歩き方です。車の運転では珍しくありませんが、歩行者ではびっくりです。ぶつかりそうになった途端、すごんだ声を出して、通り過ぎて行きました。
　こういう人が、全盲の人の杖に躓いたら、逆恨みをするのでしょう。
　一部の我が物顔の人たちが、今後、ますます増えていくような状況にあります。全盲の女子高生を蹴飛ばした男を擁護する人たちは、その予備軍といったところでしょうか。
　これだけ優しさに欠ける人たちですから、職場でも家庭でも優しさなどがあろうはずもありません。

　もっとも、先日のエントリーもそうですが、では、国家がどこまで私生活に関与すべきなのか、今回のように蹴飛ばし、傷害を与えたという場合、先日のクラシック音楽を大音量で流し続ける行為が犯罪という意味でも取り締まるべきは当然ですが、そこまでいかない不快な行為というものの存在をどう見るかです。
　国家が介入してくるということは、それだけ私生活に国家が関与し、国家権力が肥大化していくことを意味します。
　それが適正に行使されていればよいですが、そうではなく、濫用されたらどうなるのか、だからこそ従前は、国家権力の肥大化につながるようなものは、私生活への余計な介入として拒否してきたのです。これまでの日本の支配層は、この権力の行使を自らに都合の良いように使ってきたわけです。特に反体制と目された人たちに対する監視、情報収集などです。あるいはビラ貼りやビラ配布に対する軽犯罪法違反や道路交通法違反容疑による露骨な介入です。
　ところが昨今、防犯カメラの設置が多用されるようになり、それが一定の秩序をもたらすことにはなりました。犯人検挙に結びつくこともあるなど、不特定多数が行き交うところに設置される防犯カメラは、私たちのプライバシーが侵害される反面、私たちにも一定の利益があることは否定しようがありません。

　話はそれますが、目的も方法も相当でない札幌地裁本庁舎で行われている所持品検査は問題外ですが。
「札幌高裁、地裁で行われている所持品検査の問題点」

　札幌地裁の所持品検査はともかく、このように一般的に国民を監視していくことの意味を考えざるを得ません。
　我が物顔の人たちが増えていく、それを力で取り締まっていくことの限界と弊害。
　このように考えていくと、実は、お互いがお互いを尊重し合う社会にはほど遠い社会であることが、深く認識されます。
　人を蹴落とすことを正当化するような自己責任社会、格差社会、このような社会構造の中で相互の疑心暗鬼が生まれているにも関わらず、その前提を容認していていては悪循環も甚だしく、結局は、国家権力は肥大化する、しかし、我が物顔の人たちは従来のまま、というような息苦しい社会にしかなり得ません。
　民主主義を定着させるという観点からもお互いがお互いを尊重することは重要です。
　こういった教育ができる仕組みこそ実現させていかなければなりません。
　このような努力抜きに、監視社会、国家が私生活に介入することばかりを求めていては悪循環をより一層、助長するだけになります。


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