愛知県弁護士会の
鈴木秀幸氏を中心に行われた臨時総会招集請求でしたが、以下のものが決議案だそうです。
300人以上の賛同があれば日弁連の臨時総会の開催を請求できるとありますが、賛同した300人の会員は、このような文章に賛同されたのでしょうか。
どうみても、単なる日弁連執行部に対する
糾弾ビラですよ。
日弁連の総意としてあげる決議という次元のものではありません。決議であれば、外に向かっての意見表明ですから、主語は、「日弁連(私たち)は」でなければ決議の意味がありません。
こんな稚拙な決議をあげて、どうやって減員に向けた活動(運動)をしろというのですか。
ご本人鈴木秀幸氏は、一切、このような運動はしない口だけの人ですが、このような
愉快犯に振り回されるのは、まっぴらです。
「
日弁連:中部弁連の会員の方々へ 臨時総会招集の撤回を求めます」
【以下、決議案】(赤くしてあるのは私がつけたものです)
臨時総会招集請求者が提案する有志の
法曹人口と法曹養成に関する決議(案)
2016年3月11日
日 本 弁 護 士 連 合 会
司法試験合格者数、予備試験、給費制に関する日弁連の基本方針を、以下の通り決議する。
決 議 の 趣 旨
1 司法試験の年間合格者数を直ちに1500人、可及的速やかに1000人以下にすることを求める。
2 予備試験について、受験制限や合格者数制限など一切の制限をしないよう求める。
3 司法修習生に対する給費制を復活させるよう求める。
決 議 の 理 由
1 法曹養成制度改革推進会議の決定と日弁連の基本方針
(1)推進会議の決定
政府の法曹養成制度改革推進会議は、2015年6月30日「法曹養成制度改革の更なる推進について」と題する決定(以下、決定という)を行い、司法試験の年間合格者については、「これまで直近でも1800人程度の有為な人材が輩出されてきた現状を踏まえ、当面、これより規模が縮小するとしても、1500人程度は輩出されるよう、必要な取組を進め、更にはこれにとどまることなく、関係者各々が最善を尽くし、社会の法的需要に応えるために、今後もより多くの質の高い法曹が輩出され、活躍する状況になることを目指すべきである」とした。
(2)日弁連の2012年3月の提言及びその後の状況
2007年頃には弁護士不足の領域がほとんどなくなり、むしろ司法修習修了者の就職難問題が大々的に取り上げられて、弁護士過剰時代に入ることが懸念されるようになった。そのために、司法試験合格者数を段階的に減員して、早期に1000人程度にすべきであった。日弁連は、2012年3月15日に、
やっと「司法試験合格者数をまず1500人にまで減員し、更なる減員については法曹養成制度の成熟度や現実の法的需要、問題点の改善状況を検証しつつ対処していくべきである」旨の提言を決定した。
この提言から4年経過する間に、司法試験年間合格者は2000人前後からほとんど減員されなかったため、弁護士が約2割(2011年3月末3万0485人~2015年3月末3万6415人)も増加した。一方、弁護士需要は減少し、弁護士過剰が深刻化し、就職難で就職条件が悪化し、それを反映して、全国統一適性試験受験者は2011年の7249人から2015年の3517人へ半減した。従って、
日弁連は、推進会議において、それ等を理由に、「更なる減員」として合格者1000人程度を求めるべきであった。
(3)日弁連の取りまとめの基本方針
ところが、逆に、
現日弁連執行部は、推進会議において、上記の日弁連の提言にある「更なる減員」を要求せず、推進会議の決定をほぼ全面的に受け入れて協力する考えに立ち、2015年9月には執行部の基本方針として、「新しい段階を迎えた法曹養成制度改革に全国の会員、弁護士会が力を合わせて取り組もう」と題する取りまとめ(以下、基本方針という)を発表した。この基本方針は、単位会への照会や理事会の決議も不要として、執行部で決定された。更に11月には、基本方針をそのまま実施に移すとして、法曹養成制度改革課題の概要(イメージ図)を発表した。
(4)基本方針の法科大学院志願者数回復による合格者増員構想
第一に、この基本方針は、「まず、早期に1500人とすること」と言うが、現在、弁護士という職業自体が危機に瀕しているという認識を根本的に欠いている。
1500人を「直ちに実現する」ことも「更なる減員」も、一切求めていない。そのことは、逆に、1500人を下回らせずに維持する、それ以上を容認するという、実質的には、合格者増員論に立っていることになる。
2012年3月の日弁連の提言に違反する。
また、推進会議決定が1500人程度を上回る規模の合格者数を視野に入れている点に対し、基本方針は「法曹養成制度の深刻な状況と、この間の法曹志望者の減少の推移を踏まえるなら現実的な基盤を欠き、新規法曹の質の低下や、ひいては法曹養成制度に対する信頼を損なうことにもなりかねない」と述べるだけである。志願者減少及び質の低下という理由のほかに、日弁連提言において唱えられている「更なる減員」を行うための検証考慮要素の「現実の法的需要、問題点の改善状況」という、根本的で重要な理由に全く触れていない。これでは、更なる減員が実現せず、弁護士の危機が深刻化するばかりである。
また、志願者の減少の原因として、「合格率の低迷」を問題視して、大幅な合格者減員を要求する意欲を欠いている。事実、2015年の合格者は、法科大学院志願者の減少を食い止める目的から、合格基準を甘くして前年より40人多い1850人であった。
第二に、基本方針は、合格者が1500人を下回ることを食い止める考えに立って、日弁連の取り組みの中心的課題として、「法曹志望者の回復」を掲げている。それは、法曹志望者が年々大幅に減り続けると、合格者を減員しなければならなくなるからである。
この点の今後の見通しとしては、まず、2015年の法科大学院入学者は2201人であったが、同年の適性試験受験者は3517人で、文科省の指標に従って数値を想定すると、入学者選抜の競争率が2倍で、2016年の法科大学院入学者は1750人程度となり、その学年の修了者は85%の約1500人程度(標準年限内修了者は70%弱の約1200人)になる。そうなると、2018年頃には、合格基準が更に緩くなる(累積合格率70%)としても、法科大学院修了者の司法試験合格者は1050人程度となる。
次に、2016年の適性試験受験者は、これまでの減少傾向からすれば3000人近くに落ち込み、2017年の法科大学院入学者は1500人程度となり、その学年の修了者は1250人程度(標準年限内修了者1000人)に減少することになるはずである。
そうなれば、2019年頃には法科大学院修了者の合格者は875人程度に減員しなければならなくなる。
そこで、基本方針は、この予想される司法試験年間合格者の減少を食い止めるために、志願者数を回復させ合格率を引き上げるとしている。具体策としては、学生に弁護士の魅力を大々的に宣伝し(セールスポイントは高い合格率)、2015年に3517人であった適性試験受験者を今後4600人以上に増加させ、法科大学院入学者2300人及び修了者1900人を確保し、累積合格率を70%程度に引き上げ、法科大学院修了組の合格者を1350人を確保しようとする。一方、予備試験組を150人程度に制限する。この策は、合格者1500人を水増し的に確保する構想と考えざるを得ない。
しかし、このような構想が、思いどおりに効果を上げるか否かは別として、合格者の減員による弁護士過剰の是正策ではなく、逆に、合格者1500人を維持しようとする増員政策の取り組みに他ならない。これは、弁護士過剰がもたらした法科大学院志願者の減少という必然的結果に逆らった合格者増員構想であると言わねばならない。
この増員構想では、法曹人口問題が解決されないばかりか、必ず法曹の質を低下させる結果になることが予想される。職能団体としての日弁連は、志願者増員の取り組みではなく、弁護士人口適正化政策を主張し、毅然として本来的な合格者減員のための取り組みを行うべきである。この取り組みこそ、会員が力を合わせて行えることである。
2 司法試験の年間合格者数の適正化の必要性
(1)繰り返される戦前の失敗
大正11年に3914名であった弁護士数が、試験制度の変更で合格基準が甘く運用され、「弁護士資格の実質的引き下げによる増員」が行われたために、昭和4年には6409名に達した。その過程で弁護士が過剰となり、弁護士の収入が減少し、質が低下した。従来の弁護士論は、全て弁護士の使命の意義から説き起こす倫理的要素が強いものに限られていた。しかし、「それだけでは解決しがたい問題として、弁護士階層が悩みつつも口にするのを欲しなかった生活問題に直面し、経済問題が満州事変以後、弁護士階層の無力化を招来する直接の原因となった」。弁護士会が、「会員に指摘され、初めて弁護士の生活の実態調査をしたところ、有効回答者4167名の約6割が弁護士収入によって生活をカバーし得なくなり、生活費の不足者の純収入は非不足者の3分の1であった」(昭和5年発表)。「過剰弁護士は社会を攪乱し、法律と司法の信用を傷つける。弁護士には家主が家を貸さない。米屋からも酒屋からも鼻つまみにされる」「月々、否、日々の生活に追われる弁護士が、どうして人の風上に立てようか」。そのような時代においても、「弁護士の階層は全くバラバラで無力であった」、弁護士会も「弁護士の経済問題については、有効な何ごともなすことができなかった」と述べられている。(注1)
弁護士と弁護士会の現状は、戦前の大失敗の歴史を繰り返し、戦後の改革により獲得した自主独立の弁護士制度を破壊する根本的な誤りを犯していると言わねばならない。
(2)司法改革における弁護士の激増と反対意見、合格者減員決議
イ 今回の弁護士大量増員策は、法務省が、1964年の臨時司法制度調査会意見書から23年後の1987年に法曹基本問題懇談会を発足させて、司法試験及び弁護士のあり方を取り扱うとしたことが発端であった。この懇談会は、当時のバブル経済とグローバル経済の影響による任官希望者不足の状況を利用し、戦後の司法改革の見直し及び臨司意見書の実施を目的とする外部委員重視の構成であった。この懇談会では、司法試験の合格者の若年化及び弁護士のビジネス化など法曹養成と弁護士のあり方が議題とされた。
この法務省の動きに対し、藤井英男日弁連執行部は、従来からの日弁連路線を踏襲し、司法基盤の整備を求め、司法試験合格者年間200人を増員する700人を主張した。
ところが、1990年4月に日弁連会長に就いた
中坊公平氏は、専門委員会と単位会の意見及び会員の意思を無視して、これまでの日弁連の司法問題に関する路線を転換しようとした。そのために、「司法改革」をめぐって、日弁連内で、「市民にとって、より身近で利用しやすくわかりやすく、頼りがいのある司法」の実現を目指すとした大増員路線と、この弁護士大量増員に反対する意見が対立し(注2)、激しい議論が行われた。法曹人口・法曹養成に関する日弁連臨時総会が、1994年12月から2000年11月までの間に4回にわたって開催された。会員の約60%を占める東京と大阪は、
派閥が中心となって委任状を集めることを強引に行い、審理を打ち切って、弁護士人口激増と修習期間短縮の執行部案を強行採決した。日弁連自身が弁護士を窮地に陥れてきた。
ロ 1999年7月に発足した司法制度改革審議会の2000年8月の会合において、委員の中坊公平元日弁連会長が、同年4月の日弁連経済的基盤調査において、会員アンケート調査の結果、適正な合格者数を年間1000人とする回答が75.6%を占めていたこと(「自由と正義」2002年13号臨時増刊)を無視し、間違った資料にもとづいて、年間合格者3000人を主張した。日弁連会長が、即刻、ヒアリングで合格者3000人を支持する発言を行い、これを受けて、2001年6月の司法審意見書が、「法の支配」を強調し、「法曹需要の増大の諸要因については枚挙にいとまがない」と述べ、2010年に合格者を年間3000人にすること、2018年頃に実働法曹人口を5万人にすること及び法科大学院の創設を決定した。その結果、弁護士人口は、1999年3月末の1万6731人から2014年3月末には3万5045人と2.1倍になった。
ハ 日弁連の2000年11月1日の臨時総会決議に基づいて設置された日弁連の法的ニーズ・法曹人口PTの2008年3月の意見書は、前年までの各種資料などによって、弁護士人口が飽和状態となったことを裏付ける内容であった(2007年3月末現在2万3119人)。
2008年12月には、自民党の国会議員の有志が、せいぜい合格者1000人であるという提言をまとめ、国会議員の会が2009年4月に法曹人口が過剰にならないようにすることを求める緊急提言を、更に2013年6月に1000人以下を目安とする提言をした。また、同月に自民党の司法制度調査会も、法曹人口5万人という数値自体を目標としないとの結論に達したとする中間報告をまとめた。司法試験の年間合格者1000人を続けると法曹人口は5万2000人程度になるので、この自民党案は、事実上、合格者1000人以下を提言したことに等しかった。2012年4月の民主党政権下の総務省政策評価書も、司法審が予見したほどの需要は確認できず、合格者数の数値目標については速やかに検討することを勧告した。
それでも、日弁連は弁護士大量増員の誤りを認めず、1500人を下回る減員を要求しなかった。弁護士会においては、2007年以後、続々と単位会及びブロック会で合格者3000人計画の見直し、1500人、1000人以下(1000人を含む)、700人への合格者減員請求決議や会長声明が行われている。現在までに、1000人以下の決議が18単位会及び1500人を下回る決議が3単位会に達している(注3)。
ニ 司法改革は、大幅な弁護士不足が存在するとして採用された政策であるが、大幅な弁護士不足というのは完全に誤りであった。弁護士過剰と所得激減状況は、弁護士の供給が需要を大きく上回ったことを証明している。
そして、司法改革の目的として「法の支配」が掲げられたが、裁判所及び捜査機関の抜本的な改革を全く対象とせず、また、裁判所予算も増加させることなく、司法利用の支援の予算も大きく変える予定はなかった。弁護士に対して、安上がりの精神主義的な社会奉仕活動と新自由主義の過当競争を強いて、コストダウンとビジネス化を図ることが目的であった。
このように、司法に政治と経済界の論理を持ち込んだ弁護士大量増加政策について、
日弁連執行部は、未だに反省せず、司法改革の破綻を隠そうとする意図などから、危機の本質を見誤り、法曹志望者の減少や政治家(一部)を説得できないことなどを理由に挙げて、弁護士の経済問題を真正面から取り上げることを拒み続け、現在も同様である。しかし、
誤ったら誠実に訂正すべきであり、また、人に正しい判断をして貰うには、司法改革の本質を批判し、弁護士の所得の激減及び人材の劣化という変化を、具体的数値をもって実態を十分に説明しなければならないのは当然のことである。
(3)合格者数と弁護士人口の予測値
司法試験の年間合格者数は、1991年に600人、1993年に700人に増員されて以後も増員が続き、1998年に800人(53期、翌年4月入所、修習期間1年6ヶ月に短縮)、1999年には1000人になった。
弁護士人口は、弁護士の自然減が、今後20年にわたって年間500人であるために、司法試験合格者が年間1800人であるとピーク時に7万1000人となり、年間1500人に減員した場合でも6万3000人となる。年間1000人に減員すれば4万7000人、年間800人にすれば4万2500人になる。
年間合格者数が1800人と1500人では、ともに極端な弁護士過剰を作り出すため、両者に実際上の差はほとんどない。そのために、年間1500人を求めることに限定した減員には、それほど意義はない。これまでも、現在も、日弁連提言の「まず1500人にまで減員」が、それを下回る「更なる減員」の要求を先送りし、拒むことに利用されている。合格者年間1500人では、弁護士人口の適正化を図り、優秀な人材を多く得て法曹の質を維持することは、絶対に不可能である。合格者1500人減員は一つの通過点にすぎないと考え、更に合格者を1000人以下に減員することを要求しなければならない。
(4)弁護士需要の減少と所得の激減
イ 前述の司法審意見書が弁護士需要が飛躍的に増大するとした予見は、全く見当違いであった。司法審意見書が弁護士増加の根拠に利用した「法の支配」は、司法が法を利用して円滑に後始末し、法からの権力の解放を後押しするもので、本来の法の支配と無縁である。むしろ、司法を政治と経済の道具として、法の格下げを図るものであった。「法の支配」が、司法による権利救済が抑制された状況を是正する役割を果たさず、法的需要は全く増加しなかった。権利救済に消極的な裁判所を改革することは、司法審の対象外にされ、今後の改革についても、全く目処が立っていない状態である。
2015年4月の推進会議の法曹人口調査報告書も、弁護士需要について、各種資料に基づいて需要が拡大する傾向にあると述べ、「法曹人口は全体として今後も増加させていくことが相当である」と言う。しかし、
全く資料を間違って評価したものであり、逆に、報告書の各種資料は弁護士需要の減少を裏付けている。
続いて、推進会議の決定は、「法曹ないし法曹有資格者の活動領域の拡大や司法アクセスの容易化等に必要な取組を進める」としているが、利用者の弁護士に対するアクセスは、弁護士の数と努力だけでは、需要拡大の余地は少ない。我が国の弁護士需要は、もともと大きいものではなく、また、急に拡大するものでもない(1980年代後半からの地上げや2005年頃の過払金の事件のバブルが特殊である)。
需要が少ない中で、宣伝と依頼者の奪い合いが激しくなり、逆に弁護士の公共性のある活動が抑えられる状況にある。
具体的に弁護士の需要状況をみると、裁判事件は2003年から概ね半減し(弁護士需要に余りつながらない家裁の審判事件のみ増加)、弁護士会関与の法律相談も2009年から約1割減少し、有料相談は7割減少し、司法支援センターの代理援助も年間10万件で頭打ちの状況が続き、顧問先を持つ弁護士も85%から55%に減少している。
ロ このように、需要が増加しない中で弁護士人口だけが激増した結果、弁護士の所得が激減している。弁護士の所得の中央値は1999年1300万円から2013年には600万円と45%に減少した(日弁連経済的基盤調査)。2014年には上位6.5%の弁護士(事業所得が3000万円を超える約2000人)が弁護士の事業所得総額の約50%を占め、この層の所得は平均約7000万円であり、他方、93.5%の弁護士の平均は約490万円である。事業所得が400万円以下の者が37%を占め、赤字経営の者が約8000人に達し、大きな所得格差が生じている(2014年の数値は国税庁統計により推計)。
以上の弁護士の所得の半減は、推進会議の調査報告書でも、2006年調査から2014年調査の8年間で、弁護士の所得の平均値が1748.8万円(中央値1200万円)から907.4万円(中央値600.0万円)に減少したことを指摘している。
そして、今後も合格者1800人が続けば、弁護士人口が年約3.5%の割合で増加し、それに反比例して所得の減少が続き、2019年の事業所得の中央値が500万円以下となるとともに、事業所得が400万円以下の弁護士が45%を占める事態が予想される。かくして、弁護士会と日弁連の会費(平均月額5万円)が、所得の10%程度と非常に高いものになる。このような弁護士の経済状況とその変化が、弁護士人口と需要を考えるうえで、最も客観的な資料である。
これに対し、同報告書は弁護士の所得激減について、「平成26年賃金構造統計調査によると、大学・大学院卒の全年齢平均が年収601万2700円となっており、弁護士の回答者の約半数がそれよりも多くの所得を得ていることが分かる」として、企業規模等を考えることなく肯定的にとらえ、逆8に、医師、裁判官、検察官、大企業及び一般公務員等の年収との比較を一切行っていない。
しかし、弁護士の所得の平均値907万円は、所得格差のために上位3割に位置する金額であるが、この金額でさえ、開業医の平均年収(所得)2900万円の3分の1以下である。弁護士11年目は平均40歳であるが、大企業、マスコミの大卒者の40歳の給与は1000万円を上回り、裁判官の11年目の給与や渉外事務所の初任給は1000万円程度であり、弁護士の所得の平均値の方が低くなった。弁護士の所得の中央値600万円は、一般の公務員以下である。各種の補償、退職金、年金がないことも大きな違いである。法曹になるには、長期間の勉学と多額の費用が必要である。このような弁護士過剰と経済力の低下は、弁護士の職業的魅力を著しく低下させる原因となる。
(5)法曹養成の環境と弁護士の経済の悪化と弊害の実態
法曹志望者は、長期間の勉学と多額の費用を負担し、司法試験の合格の年齢は、29.1歳(2015年12月末現在、2014年は28.2歳)であり、貸与制下で1年の修習を修了しなければならない。現状は、就職が難しく、就労条件が悪化し、弁護士になっても良好なOJTを受けられず、独立開業が難しく、経済的に困窮する状況にある。
弁護士が、事件処理の仕方に適切さを欠き、公共的活動を行うなどの余裕と誇りを失い、営業活動と宣伝競争による顧客漁りが目立つようになるなど、悪い影響を与えている。
弁護士の請求による登録取消が2005年の99人から2014年の389人と約300人急増し、そのうち57期以後が213人を占め、今後も増加することが予想される。また、弁護士という職業が、地盤や看板を引き継げる者(士業の世襲化)及び商売に徹することのできる者に向く仕事になる傾向が強くなりつつある。
司法修習生の就職難とOJT不足については、前記の調査報告書において、修習修了から1年後に就職していないと疑われる者は30人程度にすぎず、OJT不足は、先輩弁護士と共同受任する機会を設けることが重要であるとの反論を受けている。誰もが、生活のために条件が悪くても就労せざるを得ない。先輩弁護士は、仕事が少なく、報酬を分け与えて教えることができない状況にある。そのために、この問題は、弁護士過剰による生活と経済問題に帰着する。
現在の弁護士の危機は、就職難やOJT不足にとどまるような性格のものではなく、弁護士の多くが根底的な経済危機に直面していることである。
弁護士の経済問題を抜きにして、弁護士過剰の是正を求める合格者減員要求運動は、会員の意思と乖離し、拡大しない。(6)海外と法務の需要、法曹有資格者の増大と弁護士制度の危機
海外展開分野も、東京の5大渉外・法務事務所の新規採用が合計200人程度で、短期間で辞める人が多いことを考えると数多くを必要とするものではない。これらの事務所に所属する弁護士の数は、10数年前に1000人程度で現在約2000人程度で増加率は2倍で、弁護士全体の増加率を越えていない。
2015年6月の企業内弁護士は1442人、任期付公務員は187人である。この1年に弁護士の企業及び官公庁への就職者が約300人に増加している。しかしながら、年間300人という組織内弁護士の就職は、司法試験合格者2000人の15%である。しかも、日弁連の2014年7~9月の65・66期のアンケート調査では、弁護士登録前の希望先は、企業内弁護士2.6%、官公庁の公務員1.0%の回答にすぎなかった。推進室のアンケート調査でも、企業と官庁の雇い入れ希望の回答は極めて少ない。
なお、企業内弁護士を認めない国があるが、我が国で「法曹有資格者」の拡大を無条件で認めることは、弁護士のビジネス化、従属化を進め、法曹教育と司法試験を変容させざるを得ず、法曹の変質と法曹の地位の低下を招き、自主独立を根幹とする、我が国の弁護士業務の独占を認めた弁護士制度を崩壊させる危険性があることを考えなければならない。
(7)弁護士過剰という根本的危機と志望者減少の原因
弁護士がこのような状況にあるために、2004年の法科大学院創設時と比較し、2015年の法曹志望者が約4分の1に減少し(注4)、この傾向に歯止めがかかっていない。そこで、
日弁連執行部の基本方針は、法科大学院と一緒になって、法曹志望者の減少を危機であるとして、法科大学院志願者を増加させようとしているのである。
しかし、大々的に宣伝して、法曹志願者を募り、司法試験の合格基準を下げて合格者を増加させれば、法曹養成も不十分とならざるを得ず、法曹の質の低下は免れない。司法試験の合格基準を下げずに合格者を減員すれば、法曹の質は低下せずに済むのであるから、合格者数を思い切って削減すべきである。
逆に、弁護士の本質的で根本的で最大の危機は、人口過剰、それによる弊害及び職業的魅力の低下であり、法曹志望者の減少は、その必然的な結果にすぎない。仕事と所得が少ない過当競争の弁護士業界に、優秀な人材の多くが法曹を目指さなくなるのは、当然のことである。
日弁連自身が、このような政策をとってきたのである。
それにもかかわらず、日弁連の法科大学院志願者を増加させる取り組みは、弁護士の職業的魅力の低下を放置したまま、単に司法試験を易しくして合格率を上げ、法曹有資格者や弁護士の魅力を宣伝し、学生等に法曹を志望するよう働きかけを行うという内容である。しかし、この取り組みは、弁護士過剰問題を解決しないばかりか、法曹の質の低下という危機を大きくする。進路選択を行う若者に対し、魅力低下の不都合な諸事実を秘して宣伝することは、信義に悖ることである。日弁連は、職能団体として、会員の苦境を受けとめ、事実を隠さず、弁護士の仕事及び経済の実態を正しく国民に伝える責任がある。
更に、日弁連の法曹志願者増加の取り組みは、多くの会員の経済基盤の喪失に対する危機意識に応えるものになっていない。
2012年の日弁連提言に違反し、職能団体として選択すべき方針ではない。このような方針を続ければ、ますます会の求心力を低下させ、会員の団結を危うくする。
(8)弁護士過剰の社会的弊害と最優先課題としての合格者数の大幅減員
弁護士活動が、経済的な裏付けを喪失し、生活費を稼ぐことに追われるならば、弁護士法第一条の基本的人権の擁護と社会正義の実現という使命の遂行は不可能である。この弁護士の根本的な危機を拡大してきた日弁連の無責任体制が、社会に知れ渡って、優秀な人材の多くが法曹を志望しなくなった。
日弁連は、これまでの誤りを認め、方針転換しなければ、信頼を回復することは不可能である。法曹資格者の濫造による弁護士過剰は、弁護士の経済的基盤の崩壊、職業の独立性と公共性の後退及び自治制度の形骸化をもたらし、社会公共的な活動の低下、教養と知の集積を後退させるばかりか、濫訴、過誤、不祥事など様々な社会的弊害を頻発させる。弁護士の信用と社会的評価を失墜させ、弁護士自治を危うくする。我が国の戦後の改革により獲得した弁護士制度そのものを崩壊させ、司法機能そのものに深刻な影響を及ぼす。
日弁連が守るべきは、弁護士制度であり、司法制度であり、それによって守られるべき国民の権利であって、法科大学院ではない。法曹養成制度は、法曹に対する需要に応えるために存在し、その逆ではない。
この弁護士制度の危機を避けるために最も必要なことは、日弁連の2012年3月の法曹人口政策提言に従い、「更なる減員」として、年間合格者1000人以下の要求を打ち立て、それを実現する取り組みを行うことである(公認会計士の合格者は、短期間に約4000人から約1000人に減員している)。合格者の減員は、就職難及び法曹の質の低下を解消するために、最も有効な策である。
一方、合格率の引き上げは合格者の増加及び質の低下をもたらす。合格率が低くなければ質を確保できない。国家試験の合格率としては、司法書士約4%、公認会計士約10%、税理士約14%である。医師の定員は、常に需給バランスがとられ、2016年から医学部の定員を減員するとしている。医学部の入試競争は極めて高いレベルであり、医師の試験は、専門職スタッフと附属病院を併せ持つ6年制の医学部の修了者を対象としている。法科大学院は、医学部と同じにならないし、普通の大学院制度とも異なる。
従って、弁護士需要及び法曹志望者の減少に見合った合格者の減員を実現することが、日弁連の最優先の課題であり、逆に、
若者を勧誘して無理に法曹志望者を増加させることは最優先課題ではない。
3 予備試験の合格者数の制限の禁止
(1)制限の実態
2014年の予備試験受験者は1万0347人で、予備試験合格者は356人であった。2015年の司法試験に301人が受験し、そのうち186人が合格し、合格率は61.8%である。一方、法科大学院修了者の合格率は21.6%である。両者の合格率に約3倍の開きがあり、極めて大きな不当な差別が行われていることが分かる。両者の合格率を近づけるためには、予備試験合格者の数を、3倍を越える少なくとも4倍の1500人程度にする必要があることになる。そうすると、予備試験合格者の司法試験の合格者が、現在よりも大幅に増加する。なお、2015年の予備試験受験者は1万0334人と前年より7人減少し、弁護士過剰のため頭打ち状況になったと思われる。
(2)差別の禁止
日弁連の基本方針は「合格者の1割150人に制限するべきである」としている。しかし、司法試験において不合理、不公平な受験制限は行われるべきではない。予備試験の難度を高め、予備試験の合格者数を更に制限することは不公平、不平等であり許されない。予備試験は、「(法科大学院修了者と)同等の学識及びその応用能力並びに法律に関する実務の基礎的素養を有するか」否かの判定を目的とするものである(司法試験法第5条)から、予備試験合格の門戸を開放して、2003年3月及びその後の何回かの閣議決定の通り、法科大学院修了者と同程度の司法試験の合格率になるようにすべきである。
4 給費制の復活
(1)国の責務
法曹は、司法という国家作用に直接携わり、公共的な使命を担うことが憲法上位置づけられた職業であり、法曹養成制度及び法曹人口のあり方を適正に設定し運用することは、国家の重要な責務である。多様で質の高い人材を確保するためには、経済的事情に関係なく法曹を志望できるように、合格者数を適正に設定したうえで、養成過程において給費制を採らなければならない。現在、司法修習修了者は、学生時代の奨学金債務を含めて平均640万円(そのうち貸与金が平均300万円)である。修習辞退者数は、2014年12月修了の67期が80名である。
現行の貸与制は、法曹養成制度の基本的なあり方に反する不合理、不公平なものである。2011年12月に廃止した給費制(年450万円程度)を制度として復活すべきである。
(2)貸与金返済と弁護士の経済状況
貸与制度において、貸与金の返済期間は、弁護士6年目からの10年間である。法曹の養成に関するフォーラムの事務局が、2011年5月に調査した結果は、57期の6年目の2010年の所得の平均値が1073万円、中央値が957万円であった。この調査から、貸与制度にしても返済能力があるとされ、給費制の復活が実現しなかった。
しかし、前記の通り、既に弁護士全体の所得の中央値が600万円以下になり、2019年には500万円を下回ることが予想される。推進会議の調査報告書において、65・66期の所得の平均値が約500万円、中央値が約484万円という調査結果が記載されている。若い弁護士の過剰供給が続くため、以前のように売上げが伸びることは望めず、独立すれば経費が必要になり、格差も大きいために、6年目も所得が余り増加せず、所得の中央値は、500万円を上回らない可能性があり、しかも、前記の通り、400万円以下の者が45%を占めることが予想される。
弁護士は、経済的に行き詰まって破産制度を利用すると資格を失う。連帯保証人に多大な迷惑が及ぶ。貸与制度は、国が法曹養成の責務を果たしているとは言えない。
なお、司法改革による弁護士の職業的魅力の低下、即ち、経済問題と志望者減少の関係を明確に理解するために、弁護士の生涯所得について、前記の調査報告書の弁護士の所得の中央値に基づいて試算してみると、2006年調査の1200万円の40年分約5億円が、2014年調査の600万円の40年分約2.5億円に減少している。更に、2019年までに約2億円に減少する。
国家の弁護士人口政策の極端な変更が、弁護士という職業と法曹志望者に対して、余りに大きな犠牲と負担を強いたために、
多くの弊害を発生させ、国民に対して様々な悪影響をもたらしている。このことから、目を逸らしてはならない。
5 結び
推進会議が、2001年6月の司法審意見書から14年ぶりに重大な弁護士増員政策の継続の決定を下し、それを支持して日弁連執行部が9月に基本方針を決定した。まさに本年度にこそ、日弁連会員は、沈黙して容認する態度から前に踏み出し、適正な弁護士人口政策を強く求めるべきである。
弁護士人口は、これまでの弁護士需要を誤った無謀な増員政策により、既に3万6415人(2015年3月末)に達し、弁護士が大幅に過剰となっている。その結果、弁護士の経済状況は極めて悪化し、そのため法曹志望者が激減しており、社会的に重要な人権擁護と社会正義実現を使命とする法曹の質を落とす危険があり、大きな社会的弊害をもたらす。
本決議の三つの趣旨は、これまでの数多くの会員アンケート調査で80%程度を占める回答及び18単位会の合格者1000人又は1000人以下の決議などを反映させている。
会員の自由意思による多数意見は、間違いなくここにある。司法試験の年間合格者数1500人では、弁護士人口はピーク時6万3000人となることから、直ちに合格者を1500人に減員するとともに、重要なことは、可及的速やかに1000人以下にすることである。
弁護士自治は、会員の自治である。最高度の自治団体の会員が、当事者及び自治の主体として、自らの職業的環境の悪化を訴え、弁護士法第一条に則って、弁護士制度の破壊に抗し、司法制度と法曹養成制度の改悪に反対し、それらの改善に最善を尽くさねばならない。
よって、全国の弁護士の有志が、会員に訴え、臨時総会の招集を求め、日弁連の進むべき道を明らかにするべく、本決議の提案をする次第である。
(注1)『職業史としての弁護士および弁護士団体の歴史』大野正男〔著〕、日弁連法務研究財団〔編〕、日評
(注2)弁護士のしっかりとした需要調査は、日弁連の本来の専門委員会で行われていた。
①日弁連の法曹養成問題委員会が、執行部側から1990年12月に諮問され、単位会に照会し、詳細な調査と検討をした結果、1994年6月、未だ700名程度に増員された修習生が法曹になっていない段階であるとして、当面合格者700人の意見書を作成した(弁護士の「経済的自立」という言葉が使われた。但し、戦前を経験した先輩は以前から指摘していた)。当時の執行部は完全に無視し、無条件で1000~1500人案を受け入れようとした。
②1996年の日弁連第16回司法シンポジウムでも、全単位会で調査と検討がなされ報告書が作成された。当日の基調報告でも「業界としては冬の時代に入り、危機的状況下にある」と警告が発せられた。当日の報告書が予定されていたが、作成されなかった。
③1998年2月には、日弁連の司法基盤改革人口問題基本計画等協議会の意見書が発表され、そのA説は、適正な合格者を1000人とした。B説が1500人である。
④2000年春実施の日弁連の10年毎の弁護士業務の経済的基盤に関する実態調査のアンケートの設問の適当な合格者数について、1000名以下の回答が75.6%を占めた。調査結果は2002年12月まで会員に知らされなかった。
(注3)1000人、1000人以下、1500人を下回る、大幅減員を決議した単位会
①2007年12月埼玉・1000人(2015年11月・700人)
②2009年5月栃木・1000人 ③2010年3月兵庫・1000人
④2010年11月長野・1000人 ⑤2011年2月千葉・1000人以下
⑥2011年9月大分・1000人 ⑦2011年11月札幌・1000人
⑧2012年2月佐賀・1000人 ⑨2013年3月愛知・1000人以下
⑩2013年6月宮崎・1000人以下 ⑪2013年7月山口・1000人
⑫2014年2月山形・1000人以下 ⑬2014年2月山梨・大幅な減少
⑭2014年4月青森・1000人以下 ⑮2014年5月三重・1000人以下
⑯2014年12月奈良・1000人以下 ⑰2015年2月富山・1000人以下
⑱2015年2月仙台・1000人 ⑲2015年2月岐阜・大幅な減員
⑳2015年3月滋賀・1500人、更に減員 ㉑2016年1月群馬・1000人
(注4)法科大学院受験者の延べ人数は、2004年の4万0810人から2015年の9351人と23%に減少している。旧司法試験受験者は、2004年に4万3367人であったのに対し、2015年の予備試験受験者は1万0344人と約24%に減少している。従って、この10年間で概ね4分の1に減少したと言える。法科大学院と予備試験の受験者の重複を考えると、現在の法曹志望者は1万2000~3000人と推定される。司法試験の年間合格者500人の時代と比較すると、当時の受験者は、時代によって違うが、概ね3万人程度であったから、合格者数が約4倍も違うことを考えると、受験者数と合格者数の割合である合格率に極めて大きな差がある。しかし、現在、法学部生年間3万数千人のうち、10%程度の3千数百人程度の学生が法曹を志望していることになるが、それで量として不足であるとは言えない。問題は志望者の層である。
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