司法試験合格率と法科大学院離れについての一考

　法科大学院離れは加速しています。今年の実入学者数は1,857人ともはや制度を維持できないところにまで減少しています。
「法科大学院離れが一層、加速する　明らかな制度崩壊を認めない人たち」

　この法科大学院離れについて、法科大学院を守れとする勢力からは、司法試験合格率が低いことも一因だと言われることがあります。
　これに対し、法科大学院制度に批判する側からは、「そんなことはない、かつての旧試験のときは合格率数パーセントでも毎年、数万人の受験者があったではないか」と反論されていますが、これが一般的な反論となっているようです。

　しかし、私は法科大学院制度を廃止すべきという見解ですが、この司法試験合格率が低いから志望者減少の一因となっているかどうかについては、私も一因の1つではあると考えます。
　もともと司法審意見書によれば、司法試験のあり方は、法科大学院制度が充実した場合には「試す試験」に移行していくべきものとして位置付けられていました。
　合格率の低迷ということも法科大学院制度が始まったときから言われていましたが、これはある意味では最初から合格者数の「上限」があったわけですから「低迷」というよりも、そういう枠組みだったということになります。

　法科大学院課程修了者の司法試験合格率の推移
　平成１８年　４８．３％
　平成１９年　４０．２％
　平成２０年　３３．０％
　平成２１年　２７．６％
　平成２２年　２５．４％
　平成２３年　２３．５％
　平成２４年　２４．６％
　平成２５年　２５．８％
　平成２６年　２１．２％
　平成２７年　２１．６％

　上位校の累積合格率は次のとおりです。
　一橋大　８１．２％
　東京大　７８．４％
　京都大　７８．４％
　慶応大　７６．１％
　神戸大　７１．７％
　中央大　６９．６％

　極端なまでに低下の一途です。
　高い学費を出し、数年掛けても合格率が２１．６％では志望者がいなくなるのは当たり前です。上位校ですらこの数字です。１００％ないしはそれに準ずる数字ではないのですから、二の足を踏むのは当然なのです。
　最初の年は、制度が始まった段階で皆、同じスタートラインでしたので、一番、合格しやすい、その次の年は前の年の不合格組の「半数」が翌年に受験することになり、その後はその繰り返しになるので、合格率が下がるのは宿命でした。
　当初、５年以内３回という受験回数制限があり（現在は５年以内５回に緩和）、５年間は下げ止まらないことになります。
　最初から制度設計が滅茶苦茶だったとも言えます。

　旧試験が受験者数を確保できていたのは、少なくとも受験するだけだったら初期投資は全く必要なかったからです。
　その背景事情を無視して合格率が低くても受験者は集まっているから合格率が要因ではないという論調には私は違和感があります。
　法科大学院制度であっても、定数を大幅に絞り、それで司法試験合格率を１００％近くにすれば、それはそれで志望者は一定数は確保できるようになると思います。
　それを従来の法科大学院制度と呼ぶかどうかは別ですが、少なくとも定員を５００人に絞り、問題がない限り司法試験に合格するとなれば、少々、時間は掛かるかもしれませんが、志望者は回復するでしょう。

　しかし、法科大学院制度を推進する人たちの発想は逆で、合格率を上げるために法科大学院を推進する人たちは、「だから合格者数を増やせ」と主張するのですが、ここが大間違いなわけです。
　入学すれば全員、合格できるということになれば二の足を踏んでいた人を少しは引き戻せるかもしれませんが、他方で大量の合格者増は、法曹制度そのものを破綻させますから、法曹志望者の激減になお一層、拍車を掛けます。
　法科大学院制度自体にとっても自殺行為だと思うのですが、法科大学院制度を盲信すると社会が見えなくなってしまうようです。

　いずれにしても法科大学院制度そのものが参入障壁になっていること自体は変わらないわけです。
　合格率のみをことさら取り出して議論すること自体に意味がないということでもあります。
　法科大学院制度は廃止する以外に司法（法曹）制度を維持する手段はありません。
　法科大学院制度を守って法曹制度を崩壊させてしまったら何の意味もない、本末転倒の議論をしているのが法科大学院制度を推進する人たちなのです。


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