ヘイトスピーチが社会問題化する中で先般、国会ではヘイトスピーチ対策法が可決、成立しました。
「
ヘイトスピーチ対策法の成立を踏まえての会長声明(札幌弁護士会) 」
ヘイトスピーチに関しては、聞くに堪えないようなもので、社会の歪みが生み出したモンスターです。
このようなヘイトスピーチが許されるものでないことはもちろんです。
しかし、それを禁止まで踏み込み、さらには罰則を科すとなれば別問題です。表現の内容によって直接、規制するというのは表現の自由との関係では、多大な緊張を招きます。
「
国連人種差別撤廃委員会によるヘイトスピーチ禁止の勧告 禁止は諸刃 河野談話批判もヘイトスピーチ扱い 」
先般、川崎市で実施されたヘイトスピーチデモに対し、これに反対する人たちが実力をもって阻止しました。
ヘイトスピーチデモは「中止」に追い込まれました。
果たして、これがヘイトスピーチに対する勝利として位置付けてよいのかどうかです。
参照
「
警察と一体になってヘイトスピーチデモを実力行使で中止に追い込むのは、いくらなんでもやり過ぎだ。 」(Everyone says I love you !)
私も警察と一緒になって行動するというのは違和感しかありませんし、このような実力阻止の行動が本当に良かったのかどうか疑問を感じます。
ヘイトスピーチを取り囲んだ人たちに対してだって、例えば道路に寝転ぶなどという行為に警察はやろうと思えば逮捕は可能でしたが、黙認したわけです。
ここで問題になっているのは表現の自由の意味です。ヘイトスピーチを行っている人たちの人権という側面からみれば、まさしく少数者の人権という問題になります。
しかし、それと表裏の関係でみなければならないのは規制する権力側の対応の問題でもあります。
警察がヘイトスピーチを違法なものと認めたわけではありません。これまで警察権力は、ヘイトスピーチに対してもいわば黙認状態であり、確かにヘイトスピーチを助長していたと言われても仕方ないものがありました。
京都で起きた朝鮮学校へのヘイトスピーチは明らかに常軌を逸したものであり、一体、警察は何をしていたんだということでもあります。
ヘイトスピーチ対策法が成立した後も警察はデモの申請でも内容によって却下することはないとしています。
他方で、今回、警察庁は、ヘイトスピーチ対策法ができて、次のように全国の警察に向けて指令を発しています。
「
警察庁 ヘイトデモに厳格対処、既存の法活用…通達 」(毎日新聞2016年6月3日)
「警察庁は、通達で同法の趣旨を改めて説明する一方、ヘイトデモの最中に違法行為があれば、現行法で厳正に取り締まることを指示した。具体的な罪名は明示しないが、名誉毀損罪や侮辱罪、道路交通法違反などを想定しており、「これまで以上に厳正に対処することで、ヘイトに厳しい姿勢を示す」(警察庁幹部)としている。」
これを読んで思い起こすのは、かつての労働運動であったり、政府に批判的なデモなどが官憲によって弾圧されてきたことの歴史です。戦前なら治安維持法などによって直接、弾圧を受けていましたが、戦後は、日本国憲法のもと、このような治安立法は廃止され、本来、表現の自由としてデモを規制するなど許されないということになりました。
しかし、官憲は、刑法や道路交通法に至るまであらゆる法律を駆使してデモに弾圧を加えてきたのです。
かつて北海道の洞爺湖でサミットが2008年に開催されたとき、これに反対するデモにも官憲は襲いかかりました。非常にものものしい過剰警備が敷かれており、必ず「成果」(デモから逮捕者を出すこと)を出すだろうと言われていたものです。
「
反サミットデモに3000人 警備陣大動員、逮捕者4人 」(朝日新聞2008年7月5日)
この警察庁の対応は、必ずや私たちにも振り向けられるものです。
ましてや警察が政府批判のデモで味方になるわけがないではありませんか。
かつてオウム真理教が地下鉄サリン事件を起こしたときも同様の問題がありました。警察権力による刑事訴訟手続き無視の横暴が猛威を振るいました。オウム真理教の信者には人権などいらないなどという風潮すらも生まれましたが、このような権力の肥大化こそが問題なのです。
リストラ対象とさえ言われていた公安調査庁が息を吹き返したのも、このオウム事件がきっかけです。
その公安調査庁の謀略行動が今になって、共産党は暴力革命の政党だなどという安倍内閣による不当な閣議決定にまで巡ってきているというのが現実です。
「
真っ当な政府のすることではない、安倍自民党政権による共産党への誹謗・中傷、まさに共産党弾圧という戦争前夜ではないか 」
権力の肥大化を招く口実に使われているのがヘイトスピーチであり、オウム事件なのです。
ヘイトスピーチにしてもオウム真理教にしても警察が黙認状態であったのは全く同じなのです。
私たちがすべきことは、権力の力でヘイトスピーチを取り締まらせたり、実力で阻止することではありません。
このようなヘイトスピーチを生み出す社会の歪みを考え、正していくことです。
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