法科大学院教育におけるICT(情報通信技術)の活用って本当にできるのだろうか?
- 2016/07/17
- 02:29
法科大学院制度の破綻は止まるところを知らず、全国に展開していた法科大学院も地方を中心に学生の募集停止が相次ぎ、適正配置は不可能になりました。
そのような中で、ICT(情報通信技術)の活用によって法科大学院制度を何とか維持しようという企てがあります。
以前から言われていましたが、先月、文科省ではITCに関するワーキンググループを開催しています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/075/gijiroku/1372336.htm
まだ議事録(議事概要)はアップされていません。
これを読んで、法科大学院関係者が考えているICTのイメージがようやくわかりました。
私は漠然と、例えば東京の大学が実施する授業を他のどの都市でもインターネット通信を利用して見ることができるというものを想像していました。
あるいは、どこかの施設を借り上げ(所有でもいいのですが)、そこでインターネット通信設備を整え、受講するというものでした。
しかし、考えてみればそのようなことはカネばかりが掛かってあまりにも非現実的です。
アップされている報告書はこれです。
「平成27年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業 法科大学院教育におけるICTの活用に関する調査研究」
平成28年3月に作成された中央大学の委託事業成果報告書です。
専門職大学院としては、文科省が決めた設置基準に適合させなければなりませんが、そこでは一言でいえば学生参加型を実現することです。
実施方法は提携大学との間で双方向で行うやり方です。
島根、琉球、鹿児島各法科大学院との提携ですが、既に島根、鹿児島両法科大学院は残念なことに募集停止を決めています。
既存の法科大学院を前提にしたものであれば、既に全国での淘汰は進んでいますし、さらに募集停止に追い込まれる法科大学院はあります。
上記ワーキンググループで配布された資料によればこのような感じです。この中でも既に募集停止された法科大学院もあります。

ICTを利用してみたからといって、この惨状を克服できるとは思えません。
学生のアンケートも結果も掲載されていますが、このICT方式でも遜色ないという結果にも少々、驚きました。本当に直接参加でもなくても変わらないというのは、私には全く理解不能です。
私もスカイプなどを使った会議などにも参加したことはありますが、ネット配信の画像をみて、発言などやりにくくて仕方ないです。やはり重要な会議は対面でなければ無理です。
アンケート結果一例

このアンケート結果は、それだけ学生が優秀なのか、逆に区別もつかないほどレベルが低いのかというなのか、それとも在籍している法科大学院よりも中央大学の講座の方がレベルが高かったのかということが考えられるところです。
無批判にICT利用に問題がないという結論を導くのは少々、乱暴です。
逆に上位校(ここでは中央大学)の学生の声として、中央大学に入学を許可されれてもいないのに受講できることへの不満や、教員からは、司法試験科目では上位校と下位校のレベルの差があり上位校の学生に不満が生まれやすいという指摘はその通りだろうと思いました。
ところで専門職大学院、法科大学院の設置基準からは、ICT利用であっても基準を充足させることが必要とも指摘されています。
基準そのものを変えなければ、結局は、仮に集中講義のような形をとっても一定期間、当該大学院の所在に赴き、そこで生活しなければならないのではないかと思われます。
筑波大学法科大学院では実際にICTを利用しているようですが、その報告書では、通信利用については一定の限界を儲けています。

このようなICTを用いた授業を2018(平成30)年から実用化しようというのですか、これには上記中央大学の報告書でも相応のコストが掛かることが指摘されています。これが授業料に跳ね返れば、現在の授業料の比ではなくなります。地方の法曹志望者のニーズとはほど遠いのではないでしょうか。
「遠隔授業を実施するためには、物的設備を整えるだけでは不十分であり、そのほかの諸々のコストも、あらかじめ想定しておかなければならない。たとえば、設備を稼動させていけば、通信料や、保守点検料等のランニングコストがかかるし、遠隔授業の教育効果を十分なものにするためには、遠隔授業用の教務システムの構築等、周辺設備についても整える必要があるであろうから、そのコストも考慮に入れておかなければならない。
また、遠隔授業の制度を設計し、運用していく人(教職員)もまた遠隔授業の導入とともに新たに確保しなければならないので、人件費を想定しておく必要があるし、遠隔授業の場合は、リスク管理の必要性が通常授業よりも高いといえるので、その対策費も考慮に入れておく必要があろう。さらに、今後、オンラインによる遠隔授業を基本にした教育課程の編成が検討され、実現した場合には、これらのコストは一気に増大する。このように、遠隔授業を実施しようとすれば、単に物的設備のコストのみならず、さらなるコストも想定しなければならない。この点、遠隔授業による地方在住者や社会人の学修環境の整備という社会的意義に鑑みれば、一定程度の公的援助が検討されてもよいのではないかと思われる。」
続編
「法科大学院教育におけるICT(情報通信技術)の活用って本当にできるのだろうか? 続き」
「日弁連執行部が目指すもの 実現すべき課題と限界」
ブログランキングに登録しています。
クリックをお願いいたします。

にほんブログ村

人気ブログランキングへ
そのような中で、ICT(情報通信技術)の活用によって法科大学院制度を何とか維持しようという企てがあります。
以前から言われていましたが、先月、文科省ではITCに関するワーキンググループを開催しています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/075/gijiroku/1372336.htm
まだ議事録(議事概要)はアップされていません。
これを読んで、法科大学院関係者が考えているICTのイメージがようやくわかりました。
私は漠然と、例えば東京の大学が実施する授業を他のどの都市でもインターネット通信を利用して見ることができるというものを想像していました。
あるいは、どこかの施設を借り上げ(所有でもいいのですが)、そこでインターネット通信設備を整え、受講するというものでした。
しかし、考えてみればそのようなことはカネばかりが掛かってあまりにも非現実的です。
アップされている報告書はこれです。
「平成27年度文部科学省先導的大学改革推進委託事業 法科大学院教育におけるICTの活用に関する調査研究」
平成28年3月に作成された中央大学の委託事業成果報告書です。
専門職大学院としては、文科省が決めた設置基準に適合させなければなりませんが、そこでは一言でいえば学生参加型を実現することです。
実施方法は提携大学との間で双方向で行うやり方です。
島根、琉球、鹿児島各法科大学院との提携ですが、既に島根、鹿児島両法科大学院は残念なことに募集停止を決めています。
既存の法科大学院を前提にしたものであれば、既に全国での淘汰は進んでいますし、さらに募集停止に追い込まれる法科大学院はあります。
上記ワーキンググループで配布された資料によればこのような感じです。この中でも既に募集停止された法科大学院もあります。

ICTを利用してみたからといって、この惨状を克服できるとは思えません。
学生のアンケートも結果も掲載されていますが、このICT方式でも遜色ないという結果にも少々、驚きました。本当に直接参加でもなくても変わらないというのは、私には全く理解不能です。
私もスカイプなどを使った会議などにも参加したことはありますが、ネット配信の画像をみて、発言などやりにくくて仕方ないです。やはり重要な会議は対面でなければ無理です。
アンケート結果一例

このアンケート結果は、それだけ学生が優秀なのか、逆に区別もつかないほどレベルが低いのかというなのか、それとも在籍している法科大学院よりも中央大学の講座の方がレベルが高かったのかということが考えられるところです。
無批判にICT利用に問題がないという結論を導くのは少々、乱暴です。
逆に上位校(ここでは中央大学)の学生の声として、中央大学に入学を許可されれてもいないのに受講できることへの不満や、教員からは、司法試験科目では上位校と下位校のレベルの差があり上位校の学生に不満が生まれやすいという指摘はその通りだろうと思いました。
ところで専門職大学院、法科大学院の設置基準からは、ICT利用であっても基準を充足させることが必要とも指摘されています。
基準そのものを変えなければ、結局は、仮に集中講義のような形をとっても一定期間、当該大学院の所在に赴き、そこで生活しなければならないのではないかと思われます。
◆ 専門職大学院設置基準(平成15年文部科学省令第16号) 第3章教育課程 (授業の方法等) 第8条 専門職大学院においては、その目的を達成し得る実践的な教育を行うよう専攻分野に応じ事例研究、現地調査又は双方向若しくは多方向に行われる討論若しくは質疑応答その他の適切な方法により授業を行うなど適切に配慮しなければならない。 2 大学院設置基準第15条において準用する大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第25条第2項の規定により多様なメディアを高度に利用して授業を行う教室等以外の場所で履修させることは、これによつて十分な教育効果が得られる専攻分野に関して、当該効果が認められる授業について、行うことができるものとする。 第9条 専門職大学院は、通信教育によつて十分な教育効果が得られる専攻分野に関して、当該効果が認められる授業等について、多様なメディアを高度に利用する方法による通信教育を行うことができるものとする。この場合において、授業の方法及び単位の計算方法等については、大学通信教育設置基準(昭和56年文部省令第33号)第3条中面接授業又はメディアを利用して行う授業に関する部分、第4条並びに第5条第1項第3号及び第2項の規定を準用する。 |
◆ 大学設置基準第二十五条第二項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業について定める件 (平成13年文部科学省告示第51号(最終改正:平成19年文部科学省告示第114号)) 大学設置基準(昭和31年文部省令第28号)第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業等について次のように定め、平成13年3月30日から施行する。 なお、平成10年文部省告示第46号(大学設置基準第25条第2項の規定に基づき、大学が履修させることができる授業について定める件)は、廃止する。 通信衛星、光ファイバ等を用いることにより、多様なメディアを高度に利用して、文字、音声、静止画、動画等の多様な情報を一体的に扱うもので、次に掲げるいずれかの要件を満たし、大学において、大学設置基準第25条第1項に規定する面接授業に相当する教育効果を有すると認めたものであること。 一 同時かつ双方向に行われるものであって、かつ、授業を行う教室等以外の教室、研究室又はこれらに準ずる場所(大学設置基準第31条第1項の規定により単位を授与する場合においては、企業の会議室等の職場又は住居に近い場所を含む。以下次号において「教室等以外の場所」という。)において履修させるもの 二 毎回の授業の実施に当たって、指導補助者が教室等以外の場所において学生等に対面することにより、又は当該授業を行う教員若しくは指導補助者が当該授業の終了後すみやかにインターネットその他の適切な方法を利用することにより、設問解答、添削指導、質疑応答等による十分な指導を併せ行うものであって、かつ、当該授業に関する学生等の意見の交換の機会が確保されているもの。 |
筑波大学法科大学院では実際にICTを利用しているようですが、その報告書では、通信利用については一定の限界を儲けています。

このようなICTを用いた授業を2018(平成30)年から実用化しようというのですか、これには上記中央大学の報告書でも相応のコストが掛かることが指摘されています。これが授業料に跳ね返れば、現在の授業料の比ではなくなります。地方の法曹志望者のニーズとはほど遠いのではないでしょうか。
「遠隔授業を実施するためには、物的設備を整えるだけでは不十分であり、そのほかの諸々のコストも、あらかじめ想定しておかなければならない。たとえば、設備を稼動させていけば、通信料や、保守点検料等のランニングコストがかかるし、遠隔授業の教育効果を十分なものにするためには、遠隔授業用の教務システムの構築等、周辺設備についても整える必要があるであろうから、そのコストも考慮に入れておかなければならない。
また、遠隔授業の制度を設計し、運用していく人(教職員)もまた遠隔授業の導入とともに新たに確保しなければならないので、人件費を想定しておく必要があるし、遠隔授業の場合は、リスク管理の必要性が通常授業よりも高いといえるので、その対策費も考慮に入れておく必要があろう。さらに、今後、オンラインによる遠隔授業を基本にした教育課程の編成が検討され、実現した場合には、これらのコストは一気に増大する。このように、遠隔授業を実施しようとすれば、単に物的設備のコストのみならず、さらなるコストも想定しなければならない。この点、遠隔授業による地方在住者や社会人の学修環境の整備という社会的意義に鑑みれば、一定程度の公的援助が検討されてもよいのではないかと思われる。」
続編
「法科大学院教育におけるICT(情報通信技術)の活用って本当にできるのだろうか? 続き」
「日弁連執行部が目指すもの 実現すべき課題と限界」
ブログランキングに登録しています。
クリックをお願いいたします。

にほんブログ村

人気ブログランキングへ
- 関連記事
-
-
西村和雄神戸大学特命教授の法曹論 質の低下は日本の防衛力を低下させる! 2016/09/02
-
これからの司法と法曹のあり方を考える弁護士の会 今週の一言 2016/08/27
-
法科大学院教育におけるICT(情報通信技術)の活用って本当にできるのだろうか? 続き 2016/07/17
-
法科大学院教育におけるICT(情報通信技術)の活用って本当にできるのだろうか? 2016/07/17
-
新藤宗幸先生の法科大学院制度に対する見解 これでは法科大学院制度は失敗する 2016/06/08
-
司法試験合格率と法科大学院離れについての一考 2016/06/06
-
北海学園大学法科大学院 募集停止へ 2016/05/26
-
スポンサーサイト