産経新聞に法曹養成制度に関する「主張」が掲載されました。
「
法曹養成 活躍の場増やす努力せよ」(産経新聞2016年10月5日)
この主張をみると、結局、産経新聞としてどのようにしたいのかということが全く伝わってきませんし、そもそも何が問題なのか理解しているのだろうかというレベルです。
「司法試験合格率が低迷し、志願者が減っている。合格しても「弁護士余り」だといわれる。
これでは法曹を志す優秀な人材が離れるばかりだ。悪循環を絶つ改革が急務である。」
出発点は、この通りです。法科大学院を経て司法試験に合格し、専門職としての資格を得るということは、通常は需要があるからこそ、人材養成を行うのですが、需要があることが大前提です。需要があるから志望するのです。
医師が供給過剰でワーキングプア状態ということになれば、医学部への志願者は激減するでしょう。現状ではかろうじて勤務医や地方などでは「需要」があり、食っていくだけであれば何とかなりますから、医学部志望者は確保できています。しかし、その実態が年収に反映されなくなれば志望者離れを招くことは必至です。
法曹の場合には、マスコミからも弁護士のワーキングプアが報じられ、現実にも就職難とか過剰と言われているわけですから、志望者が激減するのも当然なのです。
さて、問題はここからです。
「新制度では20校程度の法科大学院で鍛え、司法試験合格率は7~8割を想定していた。それが最大74校が乱立して低迷した。」
20校程度が予定されていたというのですが、誰が「予定」していたのでしょうか。むしろ、認可基準さえ満たせば法科大学院として開校させるというのが「理念」でした。
「法科大学院の設置は、関係者の自発的創意を基本としつつ、基準を満たしたものを認可することとし、広く参入を認める仕組みとすべきである。」(司法制度改革審議会意見書)
制度提唱を取りまとめた佐藤幸治氏にいわせれば、法科大学院制度そのものが法曹人口を画することになると言われることがあることは、そんなことはない。3000人は最低限の目標であって、さらに法科大学院を設立すればいいと主張していました。
「
司法制度改革の「原点」③」
佐藤幸治氏 表舞台から姿を消した? この惨状を見ても何も感じないのだろうか
弁護士人口激増に反対する立場からは法科大学院の74校設立は無謀であり、乱立そのものなのですが、弁護士人口を激増させよと主張してきた側が74校設立を「乱立」というのは無責任です。
「来年度の補助金基礎額がゼロの最低評価となった大学院が7校ある。複数の大学が連携してカリキュラムや指導態勢の充実を図るなど思い切った手が必要だ。」
この点については法科大学院間の連携という形で試みているようですが、成功例はありません。ICT活用が最後の切り札のように言われて検討されていますが、それ自体、制度破綻を露呈しているといえます。別々の大学であることから出発しているのですから、求められるのは「連携」ではなく「統廃合」が帰結になります。
「
法科大学院制度につける薬はない」
「ただ合格率にとらわれるだけでは法曹養成改革の意味がない。幅広い人材を集め、対話型授業で識見ある人材を育てる当初の理念を忘れず進めてもらいたい。法学部卒以外の社会人を受け入れるコースを充実させる大学院が出てきていることは歓迎したい。」
合格率が低い=制度破綻だという自覚がありません。専門職大学院として再出発するというのであれば受験資格要件を外し、司法試験とは切り離すべきでしょう。
そうしなければ司法試験に合格しない法科大学院課程修了者という烙印しか押されません。法学部卒業以外の社会人についても会社を辞めてまで高額な学費と長期間を要するのであれば、転職してもそれに見合うものがなければ、社会人志望者が増えないのは当然です。
法科大学院設立当初こそ、華々しい触れ込みで始まった法科大学院に期待して、「青い鳥」を探しに来た層も大量に流入してきましたが、それは当然のことながら、一定の見返りがあると思ったからにすぎません。
「弁護士会の中から、こうした目標を「大幅に減らすべきだ」との声があるが、疑問だ。」
札幌弁護士会をはじめ多くの弁護士会がさらに大幅に減らすべきだと主張していますが、当然のことです。これ以外に制度を維持する方策はありません。
これについての産経新聞の主張は、これです。
「弁護士や裁判官などの地域的偏在は解決されていない。災害被災地など長期的、組織的な法律家の支援を必要としている場がある。高齢者や子供を守る法曹の支援の重要性は増している。企業や官公庁、国際舞台で法律知識と交渉力を持つ人材が望まれている。」
地域偏在の問題でいえば、裁判官の支部常駐の問題は解決していませんが、これとて、現在の人員+α程度で達成できます。
弁護士の場合には、公設事務所によって解決しています。
産経新聞が必要とされていると主張しているものは、すべて抽象的です。需要があるのであれば、既に過剰になった弁護士が群がるはずなのですが、そうはなっていません。何故でしょう。
「法律知識と交渉力を持つ人材」ということですが、「交渉力」など法科大学院に2~3年、座学を積み上げても大した養成にはなりません。
これを司法試験で試すなどということも不可能です。
所詮、学生ですから素養を身に付けると言ってみたところで、個人の資質にも依るところが大きいのですが、仮にそのような人材を養成したいというのであれば、
司法試験とは切り離した上で法科大学院課程修了者としての認定資格を与えるという方法しか制度として残せる方法はありません。
司法試験との関係を切れないまま、法科大学院制度を維持しようということでは答えは永久に見つけることはできないでしょう。
法科大学院関係者は、法科大学院制度から司法試験受験資格要件を外せば志望者は激減すると危惧しています。
今のままでも激減しているという現実を見ることなく、小手先の改善ばかりに奔走しながら7~8年も経過し、さらに平成30年までが改革期間などと位置付けて、「検討」ばかりに時間を浪費しているだけで、回答が見けることができないのはむしろ当然で、司法試験と結合させている限りは専門職大学院としては生き残れない、これを自覚すべきでしょう。
それだったら意味がない、というのであれば、法科大学院(制度ではない)そのものを廃止すべきなのです。
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