共謀罪賛成派の弁護士が持ち出した事例 これでどうしたら立件ができるの？ 次は捜査手続きの充実、怪しいと思ったら監視するからね。

　前回に引き続き、朝日新聞2017年6月3日付朝刊の記事からです。
「共謀罪　ＴＯＣ条約のために必要と政府に代わって主張する人たち　成川毅氏の無責任な発言」

　成川毅弁護士（旭川弁護士会）は、共謀罪によって治安が向上するということについてこのような事例を挙げています。
「札幌地検岩見沢支部の検事だった1984年、夕張市の社員寮で6人が殺害される法科殺人事件が起き、捜査を担当しました。会社社長で暴力団組長の男と妻が、保険金目的で組員に命じ、組員は被害者らに酒を飲ませて寝静まってから火を付けたのです。
　実行前に殺人予備罪が適用できたかを考えると、銃を用意したならともかく、酒を買っただけでは予備行為にはなりません。「共謀罪」があれば、3人が計画し、資金や物品の手配、関係場所の下見をしたとして逮捕できる余地があります。」

　例としてあげられたものはテロとは無関係の一般事件です。

　この事件では、火災により6人が焼死し、その結果、1億円以上の保険金も支払われています。そのときは刑事事件としてではなく失火として処理されました。数ヶ月後、実行犯が自首したために事件が発覚（この首謀者からの報酬は低額というより、むしろ殺されることを危惧）、首謀者とのその妻が逮捕されたものです。

　さて、酒を買うだけで逮捕ですか。事件が起きて、しかも実行犯の自首があって初めて事件として認知したものをどうやって酒を購入した段階で逮捕するのですか。
　だから成川氏は「逮捕できる余地」などと表現しているのかもしれませんが、捜査機関が事前に認識していなければ、逮捕という現実の行為を行うことができません。

　しかも、ここでいう酒を買う行為というのは、日常的な行為であり、外形上、それが犯罪に供するために買ったものかどうかはわかりません。
　購入者の内心に踏み込まない限りは犯罪に関連するものかどうかは全くわかりません。
　その前段階の「共謀」の段階を捜査機関が把握しない限り、内心はわからないということになります。
　首謀者から実行犯への「依頼」は恐らく、声で伝達されています。文書で指令を出すなどということは考えがたく（当時はメールはありません）、直接のやり取りだったでしょう。それは対面か電話かということになりますが、いずれにせよ発せられた声は録音したり、その場で聞いていない限り、捜査機関が認識することはできません。
　さて、そうなると酒を買うという準備行為まで待つというのであれば日常的に監視し、盗聴し、ということで酒を買うことの意味づけを事前に情報として得ていなければならないことになります。
　犯罪が起きる前から監視していなければ酒を買った時点での事件化など不可能です。
　これで逮捕の余地があるというのであれば事前に監視しているということを意味します。

　今ですら、警察では公安部が反体制とされる団体、個人を監視下においています。非合法な手段も含め、監視が現実に行われているわけですが、そういった捜査機関の捜査行動が拡大していくことも必然です。
　ＧＰＳの捜査使用については、最高裁が歯止めを掛けました。
　しかし、ＧＰＳに限らず、漏れてくるネット情報をそのまま探知するような捜査方法も考えられるわけで、もう既に行われているかもしれません。
　いずれは捜査対象者に対するハッキングにまで至ります。

共謀罪での立件は事前の監視が不可欠なのだ！


　先の事例を共謀罪で一網打尽にできるということですが、これで治安がよくなるのですか。
　安倍氏の御用ジャーナリストには捜査に手心を加えて、そうでなければさっさと逮捕というやり方は、単なる恐怖政治ではないですか。

　もともと共謀罪における準備行為も漠然としたものであり、逆にいえば、この準備行為さえあれば処罰できるというのが法の規定の仕方です。
　どの程度の犯意があったかどうかなどこれまた漠然としたものです。
　先の保険金殺人もあとからみれば、実際に実行がなされていますから、「確定的に犯意」はあったということになりますが、酒を買う段階ではどう考えても漠然としているのです。
　先の事例では、首謀者は殺せとまでは言っていないと殺人に関しては無罪を争っていました。特に首謀者の妻は、そこにいただけ、想定外としてそのように争うことは当然です。これは共謀共同正犯の特有の問題ですが、共謀罪ではなお一層、この共謀の枠組みが曖昧になります。その後の「事件」が起きる前に立件することが想定されているからです。
　これでは単なる日常会話に過ぎないと思っていただけで当事者に犯意がない場合も含まれてしまうという怖さがあります。
　要は実際に起きてしまった事例や、あるいは教室設題のように犯意がある人たちということを前提とした事例などでは、共謀の時点（＋何でもいいから準備行為）で捕まればいいということになるのかもしれませんが、共謀とされた時点の犯意は内心のものであり、外部からは不明なのです。それを共謀罪として立件せよ、というのが今回の共謀罪法案です。

　このように内心が処罰の対象になる、推進派の弁護士が持ち出した事例が示してくれました。
　実際に共謀罪で処罰するということになると、事前の段階から監視し、それが犯罪としての成否が曖昧であったとしても立件し、処罰してしまう、これが不可避になるということを意味しています。

　さて、今やメール、ラインの時代。そのやり取りも密かに見れなければ監視はできません。
　いずれ共謀罪の制定に合わせて、警察が目をつければちょっとでも怪しいそぶりをしたら盗聴、ハッキングのための捜査手続きが必要となります。
　この次はそのための手続法の整備が待っていますよ。
　その「怪しいそぶり」に該当するかどうかも捜査機関が認定するんですからね。


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