取調べ映像の持つ危険性を無視! 裁判員に判断させよとは、裁判員裁判にそこまでのめり込めるのは何故?
- 2018/08/13
- 00:14
先般、東京高裁で出された判決は、その結論はともかく、取り調べ映像がもたらす印象によって有罪認定することに警笛を鳴らすものでした。
「自白取調の映像の恐ろしさ 東京高裁で破棄 で、何故、有罪になるの?」
ところが、これに対して異を唱えている方がいます。渡辺修甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)です。
北海道新聞2018年8月4日に渡辺先生のコメントが掲載されています。
取り調べの録音・録画(可視化)映像で犯罪事実を認定した一審判決を「違法」とした今回の東京高裁判決は、市民常識の否定につながりかねず、相当に深刻だ。映像を証拠としないのであれば、録音・録画の意義も薄れる。一般市民は映像の影響を受けやすいとの意見を聞くが、そうした部分も含めて市民に委ねるべきだ。今回のような判断が続けば、市民の裁判員裁判への参加意欲がさらに失われてしまう。
映像の危険なんて何のその、裁判員の判断を否定するなんてけしからんというコメントです。
ここまで裁判員裁判を擁護しようというのはある意味では見上げたもんですが、裁判員第一主義では刑事裁判は誰のためにあるのかという点で本末転倒です。
もともと取り調べの可視化が言われるのようになったのは、密室での自白強要にありました。被告人が自白は任意ではない、強制によるものだと訴えても、裁判所は容易にそれを認めようとはせず、自白の任意性を肯定し、有罪とするための証拠としてきました。
しかも任意による供述であっても虚偽自白になることは既に一般的にも認識されているところです。迎合的な被告人は抵抗することはありません。取調官の言うがままに調書が作られてしまいます。
足利事件の菅谷さんの事件もそうだし、氷見事件、さらに最近では12年の刑期を終えて出所した女性が刑事に好意を抱いて自白したという事件もありました。任意だから有罪という短絡的な発想は極めて危険であるということは、もはや常識の範ちゅうです。
渡辺先生におかれては、こうした常識よりも「市民常識」を優先したというものです。
そういった観点で考えると、渡辺先生は録音・録画の意味はえん罪防止ではなく、裁判員に情報提供するためという意味合いになってきてしまいます。しかも裁判員が映像の影響を受けやすくても構わないとまで言い切ってしまっているのですから、刑事裁判の疑わしきは罰せずといった大原則は裁判員の前には後退させられてしまっても当然だということになってしまいます。
渡辺先生に言わせれば、その疑わしきは罰せずという大原則も裁判員の市民常識で判断するものであり、疑わしきは罰せずが後退していることなんかないんだと言うのかもしれません。
私が把握している(記録に残している)渡辺修先生のコメントは以下のものがありました。
いずれも裁判員を絶賛し、その判断が優先されるというものです。
産経新聞2012年1月23日
「窃盗犯が逮捕を免れるため、凶悪な犯罪に走る危険はある。執拗(しつよう)に車で逃走しようとする二人組を迅速に制圧することは警察の緊急の責務であり、現場警察官の断固たる措置は是認されるべきだ。拳銃発砲は「殺意」を伴う行為であるが、市民社会を防衛する緊急の必要があれば、警察官の正当な業務として犯罪にはならない。刑事裁判を通じて正義を実現するのは市民の義務であり、これを誠実に果たそうとする良識ある市民は多い。そうした裁判員が法律のプロである裁判官と協力して、治安維持のため警察官の職務に期待することを真剣に検討することになるが、今回は裁判員裁判にふさわしい事件といえる。」
毎日新聞2011年7月3日
「永山基準で被害者の数は一要素にとどまる。他に重大事件を連続して起こした点も考慮すると酌量すべき事情は見あたらない」として判決を妥当とみる。そのうえで「永山基準で裁判員を拘束すべきでない。裁判員は自分の目の前にある証拠を租借(そしゃく)して刑を下さなければならず、むしろもっと重い責任を負う」
オークションにも出品されている裁判員バッジ

裁判員は永山基準など無視せよというこの主張ですが、2013年に東京高裁で裁判員裁判が下した死刑判決が破棄され、最高裁によっても是認されるに至っています。
「最高裁 裁判員裁判の死刑判決を認めず!」
今時の司法改革は軒並み失敗となっています。法曹人口、法曹養成制度も然り、この裁判員制度もそうですが、明らかに失敗です。
しかし、当初から司法改革にのめり込んでいた学者、弁護士たちは未だにこの失敗を認めようとはしません。今回の渡辺先生のように支離滅裂になってしまっても、なお裁判員制度を擁護しようとするその姿勢は、あっぱれというべきなのでしょうか。
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「自白取調の映像の恐ろしさ 東京高裁で破棄 で、何故、有罪になるの?」
ところが、これに対して異を唱えている方がいます。渡辺修甲南大学法科大学院教授(刑事訴訟法)です。
北海道新聞2018年8月4日に渡辺先生のコメントが掲載されています。
取り調べの録音・録画(可視化)映像で犯罪事実を認定した一審判決を「違法」とした今回の東京高裁判決は、市民常識の否定につながりかねず、相当に深刻だ。映像を証拠としないのであれば、録音・録画の意義も薄れる。一般市民は映像の影響を受けやすいとの意見を聞くが、そうした部分も含めて市民に委ねるべきだ。今回のような判断が続けば、市民の裁判員裁判への参加意欲がさらに失われてしまう。
映像の危険なんて何のその、裁判員の判断を否定するなんてけしからんというコメントです。
ここまで裁判員裁判を擁護しようというのはある意味では見上げたもんですが、裁判員第一主義では刑事裁判は誰のためにあるのかという点で本末転倒です。
もともと取り調べの可視化が言われるのようになったのは、密室での自白強要にありました。被告人が自白は任意ではない、強制によるものだと訴えても、裁判所は容易にそれを認めようとはせず、自白の任意性を肯定し、有罪とするための証拠としてきました。
しかも任意による供述であっても虚偽自白になることは既に一般的にも認識されているところです。迎合的な被告人は抵抗することはありません。取調官の言うがままに調書が作られてしまいます。
足利事件の菅谷さんの事件もそうだし、氷見事件、さらに最近では12年の刑期を終えて出所した女性が刑事に好意を抱いて自白したという事件もありました。任意だから有罪という短絡的な発想は極めて危険であるということは、もはや常識の範ちゅうです。
渡辺先生におかれては、こうした常識よりも「市民常識」を優先したというものです。
そういった観点で考えると、渡辺先生は録音・録画の意味はえん罪防止ではなく、裁判員に情報提供するためという意味合いになってきてしまいます。しかも裁判員が映像の影響を受けやすくても構わないとまで言い切ってしまっているのですから、刑事裁判の疑わしきは罰せずといった大原則は裁判員の前には後退させられてしまっても当然だということになってしまいます。
渡辺先生に言わせれば、その疑わしきは罰せずという大原則も裁判員の市民常識で判断するものであり、疑わしきは罰せずが後退していることなんかないんだと言うのかもしれません。
私が把握している(記録に残している)渡辺修先生のコメントは以下のものがありました。
いずれも裁判員を絶賛し、その判断が優先されるというものです。
産経新聞2012年1月23日
「窃盗犯が逮捕を免れるため、凶悪な犯罪に走る危険はある。執拗(しつよう)に車で逃走しようとする二人組を迅速に制圧することは警察の緊急の責務であり、現場警察官の断固たる措置は是認されるべきだ。拳銃発砲は「殺意」を伴う行為であるが、市民社会を防衛する緊急の必要があれば、警察官の正当な業務として犯罪にはならない。刑事裁判を通じて正義を実現するのは市民の義務であり、これを誠実に果たそうとする良識ある市民は多い。そうした裁判員が法律のプロである裁判官と協力して、治安維持のため警察官の職務に期待することを真剣に検討することになるが、今回は裁判員裁判にふさわしい事件といえる。」
毎日新聞2011年7月3日
「永山基準で被害者の数は一要素にとどまる。他に重大事件を連続して起こした点も考慮すると酌量すべき事情は見あたらない」として判決を妥当とみる。そのうえで「永山基準で裁判員を拘束すべきでない。裁判員は自分の目の前にある証拠を租借(そしゃく)して刑を下さなければならず、むしろもっと重い責任を負う」
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裁判員は永山基準など無視せよというこの主張ですが、2013年に東京高裁で裁判員裁判が下した死刑判決が破棄され、最高裁によっても是認されるに至っています。
「最高裁 裁判員裁判の死刑判決を認めず!」
今時の司法改革は軒並み失敗となっています。法曹人口、法曹養成制度も然り、この裁判員制度もそうですが、明らかに失敗です。
しかし、当初から司法改革にのめり込んでいた学者、弁護士たちは未だにこの失敗を認めようとはしません。今回の渡辺先生のように支離滅裂になってしまっても、なお裁判員制度を擁護しようとするその姿勢は、あっぱれというべきなのでしょうか。
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