今般、法曹コース、受験資格緩和は従来の法科大学院制度の大転換 上位校以外は不要 志願者減は「法曹としての魅力」の問題ではない

　文科省は法曹志望者、とりわけ法科大学院の志願者の激減に危機感を募らせ、一部の優秀な学生を優遇する制度、法曹コースを創設するということでこの危機を乗り切ろうとしています。
　司法試験受験資格要件も法科大学院課程修了を要件にしていたものを一部、緩和し、法科大学院在学中にも受験を認めるという方向で検討されていることも報じられています。
　もっとも、その具体的な内容は全く明らかにされていません。

　このような方法で法曹志望者が増えるはずもないというのは、普通に考えればわかることです。
　将来、法曹資格を得られたとしても裁判官、検察官は狭き門であり、弁護士は既に過剰状態となり、新たな新規参入しても大卒で公務員、企業に就職するよりも経済的には安定感もない、というのでは学生にとっての進路選択からは外れます。当たり前のことです。
「「法科大学院等の抜本的な教育の改善・充実に向けた基本的な方向性」に対する意見」（札幌弁護士会）




　さて、ここで志願者を増やすためには…ということでよく言われているのが「法曹の魅力」です。
　弁護士（法曹）はいろいろな活動がありますよ、できますよ、という法曹の魅力をアピールし（主には大学生、高校生）、それで志願者を回復しようというのですが、誰もが思うのは、そうした魅力を否定している人はいませんよ、ということです。

　弁護士はこんな活動もしています (PDFファイル;1602KB)（2018年3月発行）

　にも関わらず進路（職業）選択からも外されてしまっている現状をどう考えるのですか、ということなのです。
　年輩の弁護士からは自分が弁護士をめざすのに収入のことなんて考えたこともなかったという人たちもいますが、弁護士の収入など考えなくてもいい時代だったからです。

　法曹志望者が減少したのは、法曹の魅力が減少したから？　ではなく学生に伝わっていないからだというのが、こうした日弁連のパンフレットです。

　弁護士になろう！！☆8人のチャレンジ☆(PDFファイル;6.8MB)

　弁護士になろう 8人のチャレンジ　社会人編 (PDFファイル;4MB)

　これを読んで法曹になりたいと思ったでしょうか。さて、その次に考えることは？
　弁護士になったとしても職業として生涯にわたってやっていけるかどうかですよね。ここで上がっている例は、弁護士として一発あてたという特殊な分野での成功例を強調しただけで、ビジネス的な観点でしかないので、普通に就職したいという学生にとっては何も魅力的なものにはならないでしょう。

　今回の改革が向かうところは、東大などの一部の法科大学院のための改革です。裁判所、法務省などが優秀な層を確保したいという利害もあります。
　今回の改革は、東大や京大などの法科大学院在学生が予備試験に流れることを食い止めるだけが目的ではなく、加えて「優秀」層に法曹を志望して欲しい、できれば法科大学院に進学させるために特典を与えようというものです。人材離れという危機感は半端でないもので、それはそれで理解はできます。
　そうなると、目的が違うのですから、法科大学院制度そのものを浮揚させる効果がないのは当たり前で、法科大学院制度の大転換を実施し、優秀層を確保し、その層が法曹になってくれればいい、そのための改革だということになります。
　一部の上位校を除けば、文科省案に従っても不要になるはずです。その観点からも今回の改革案は、極めて中途半端なのですが、法科大学院制度そのものは切り捨てたともいえ、法科大学院制度は、終焉を迎えます。
　優秀な層を確保したいのであれば、司法試験合格者数を2～300人に絞り込めば可能です。但し、法科大学院制度は不要になりますが、考え方は同じと言えます。

「『変貌する法科大学院と弁護士過剰』（花伝社）」



「法科大学院制度改革　法科大学院等特別委員会の議論に危機感なし　法曹コースは失敗する」

ブログランキングに登録しています。
クリックをお願いいたします。

にほんブログ村

人気ブログランキング