先般、中教審法科大学院等特別委員会は法曹コースの導入を決め、本国会にも改正法案が提出されたようです。
もう1つの目玉が司法試験受験資格要件の緩和で、修了見込みで受験できるとするものです(ギャップタームの解消)。
この法曹コースの導入にあたっては、よくわからないのですが、昨年5月より「法曹コース」の導入を決めながら、半年以上も制度が具体化せず、ようやく具体化するための法案が出たということのようです。昨年秋には国会に法案が出されるとも言われていながら、随分とのびのびなっていました。
昨年までは2月から7月にかけてはこの法科大学院等特別委員会を傍聴していました。しかし、委員会という位置づけでありながら、そこで出されるのは、法曹コースに対する質問ばかりで、制度設計のための意見交換とはほど遠いものでした。
座長と文科省事務局との間で必死になって具体化していたんだろうなと思うのですが、ようやく今頃になって法曹コースが具体化し、しかも司法試験受験資格要件の緩和までがついてきました。この受験資格要件の緩和の問題は、この間の法科大学院等特別委員会はほとんど議論もされず、所管が法務省だからという理由のようですが、公の議論には登場しませんでした。
それでもマスコミからは時折、受験資格要件の緩和が報じられることがありましたが、公での議論は最後までありませんでした。
そして、いよいよ法曹コースとギャップタームの解消が法案として出てきたのですが、法科大学院制度を金科玉条のごとく絶賛してきた人たちからは、批判の声が上がりました。
何よりも朝日新聞がその筆頭でしょうか。
2019年2月19日付朝刊では、「
「司法改革に逆行」政府方針 懸念や反対の声」として大きく報じています。
東京新聞もこれに近いのでしょうか。
「
「多様な人材」ゆらぐ理念 法科大学院制度骨抜き? 政府が改革案」(東京新聞2019年2月22日)
「受験資格から法科大学院の修了要件を外す。これではまるで骨抜きだ。実務重視の新たな法曹養成機関として二〇〇四年に導入された法科大学院はどこに向かうのか。」
朝日新聞では、須網隆夫・早稲田大学法科大学院教授の批判を掲載しています。
「学部も大学院も、司法試験の予備校となり、法科大学院制度が実質的に崩壊する危険がある。司法制度改革を反故にしかねない。」
これまでの法科大学院等特別委員会での議論は、明らかに東大などの法科大学院が司法試験予備試験に流出し、空洞化に対する危機感がありました。今、予備試験に対抗できる施策をとらない限り、法科大学院制度は崩壊するという危機感です。
地方の法科大学院や未修者コースなど眼中にはありませんでした。法曹コースが本決まりになる前の議論では、委員の一部からは、未修者コースや地方の法曹養成などの「理念」を語っていましたが、井上座長に対案はあるのかとばっさり切り捨てられていました。徐々にこうした声は収束していきましたが、低迷する地方や未修者コースなどの「改革」に力が分散されてしまっては法科大学院制度の崩壊が早まることは目に見えていましたから、そうした雑音など聞いてはいられない、というのが露骨でした。
日弁連執行部もこうした方向性には基本的には便乗していきます。
法曹コースという期間の短縮だけでなく、修了見込みで司法試験を受験できるようにすることによってさらに1年が短縮できます。そうしなければ予備試験に対抗できない、これが危機感の根幹です。
その意味では、法科大学院制度が危機的な状況にあるということの認識は、文科省などは自覚しているということでもあります。
しかし、その危機感がわからない法科大学院制度を金科玉条のごとく絶賛する勢力は、法科大学院の理念が失われる、むしろ予備試験を廃止ないしは制限すべきだと主張するわけです。
今、予備試験を廃止ないしは制限などしたら、間違いなく法曹志望者はさらに激減することははっきりしていて、だからこそ法務省は予備試験制限などできることではないのです。
法科大学院制度を絶賛する人たちは、予備試験さえ制限すれば法科大学院に学生が戻ってくると思い込んでしまっているのですが、現状認識に欠けていると言わざるを得ません。
もともと法科大学院制度の理念と言ってみたところで、大したことではなく、要は司法試験合格者数を飛躍的に増加させた場合、単純に一発試験で合否を決めてしまうと質が担保できなくなる、全体の底上げのために文科省の専門職大学院構想と結びつき、法科大学院制度を導入するということになったにすぎません。
国際社会での活躍とか色々な理想が述べられることがありますが、そのようなことを法科大学院で学んでみたところで座学でしかなく、そんな人材の要請は法科大学院で担えるようなものではないのです。法科大学院が司法試験の予備校となるという指摘はある意味では当たっているのですが、全体の層の質の底上げのための制度ですから、司法試験予備校化自体がことさら問題とされるようなものではないのです。
未だに法科大学院の理念だと言っている人たちは、もういい加減に現状を見るべきです。
誰か、このような人たちに玉音放送を流してやってください。本当ならその役割は佐藤幸治氏が責任をもってやるべきなんですけれど。
失敗の責任を誰もとろうとはしない、日本社会の一番、悪い面が出ています
「
臨床法学教育学会 佐藤幸治氏の特別講演 認可される法科大学院数は20から30のはずだった」
なお、法曹コースでも失敗します。予備試験とのパイの奪い合いをやってみても志望者が増えるわけではないからです。
「
法科大学院制度改革 法科大学院等特別委員会の議論に危機感なし 法曹コースは失敗する」
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