法科大学院関係者が求める司法試験合格率

　第7回法曹の養成に関するフォーラムでは、司法試験の合格率についても、感想なのか意見なのかもわからないレベルの発言がなされています（要旨）。

発言議事録（ＰＤＦ）

鎌田薫委員（早稲田大学総長・法学学術院教授）
　日弁連からの御報告では、司法試験を合格しても就職できない人を生み出すのは、国家的・社会的喪失だというが、法科大学院を出て司法試験にも合格できない、就職もできないという人を大量に毎年、何千人もつくり出すことのほうがもっと大きな社会的損失だ。
　この現状を変えるのは幾つかの考え方があって、一つは分母を小さくすることによって合格率を上げていくことで、中教審を中心にして、法科大学院の入学定員を減らしてきたし、本年度は法科大学院の実入学者総数は3600ぐらいまで絞り込まれているというように、分母は小さくしてきた。他方で、分子はむしろ縮小ぎみということで、この合格者を増やしていくことが重要だ。

井上正仁委員（東京大学大学院法学政治学研究科・法学部教授）
　現在の2000人という合格者数を1500に減らすべきだということが一部で主張されているが、この1500人というのは、司法制度改革が始まる前にそこまで増やそうという合意ができていた数字で、その人数にするというのでは改革前に戻ってしまい、改革で手をつけなかったのと同じ結果となってしまう。
　今の制度でも2000人以上法曹資格を認め得るだけの学力があると認定されているのに、法曹界のキャパシティがないなどの理由でこれを削るというのは、本来資格がある人なのに法曹となるのを塞いでしまうことになり、適正とはいえない。

　結局、そこで述べられていることの趣旨は、司法試験の合格率を上げることによって、何としても法科大学院制度を死守しようということでしかありません。
　分母を削減する努力と言ってみたところで、法科大学院に対する志望者が激減していることからみれば、法科大学院関係者が分母を絞ったなどとよくも言えたなと思いますが、どう考えても現状の定員数、入学者数は過剰でしょう。
　現状の2000名維持の司法試験合格者ですらも、このような人たちからみると「縮小ぎみ」ということになるのは、やはり3000名の合格者数ということに執着があるからです。それが実現できれば、一挙に合格率は、単年度だけでみれば8割を超えることになります。
　しかし、社会に必要とされていない法曹を大量増員することの意味がどこにあるのかという根本的な議論はなおざりにしたまま、「法科大学院を出て司法試験にも合格できない、就職もできないという人を大量に毎年、何千人もつくり出すことのほうがもっと大きな社会的損失」と発言するのは非常識も甚だしいものです。
　その法科大学院修了者が仮に全員、司法試験に合格し、司法修習も経て、行き場がないとなれば、司法修習にかけるコストを考えれば、社会的損失の度合いをさらに増加させるだけのものだからです。
　本当に鎌田氏が心底、損失だと評価しているのであれば、法科大学院を廃止する、定員を激減させるという選択肢もあるのですが、もちろん、そのような選択をするような人ではありません。
　鎌田氏が「損失」と評価しているのは、あくまで司法試験合格者数を激増させるための方便にすぎないからです。

　また井上氏は1500人にしてしまったら、改革しなかったのも同じという趣旨の発言をしていますが、何故、改革が必要なのか、改革の目的は何だったのか、その目的自体が正しかったのかという発想は一切なく、法科大学院制度そのものを自己目的化しているだけです。
　「改革を止めるな」といわんばかりの主張は、ヒステリックにすら聞こえますが、そのような発言をするときは、現実にその「改革」に問題があることが誰の目にも明らかになってきたことの現れでもあります。

　それから、現行制度でも2000名以上も能力があると判定されているのに、司法試験合格者数を減らすことによって、それを切り捨てるのはおかしい、などと言っていますが、それは、あくまで「現行制度」から導かれた水準を前提にしているからであり、井上氏の発言は、そこに明らかなすり替えの議論がなされています。
　司法試験合格者数が2000名を維持されているのは、あくまで3000名とすべきとする閣議決定があるからであり、能力の問題ではありません。

　ところで、このフォーラムでは、萩原敏孝委員（株式会社小松製作所特別顧問）が次のように発言しています。
　「今日、御説明を受けた中身の問題ではなくて、これだけ範囲の広い領域についての御説明を受けて、残り１５分でこの議論をしようと。次の回はほかのまたヒアリングが始まるというようなことで、本当にいいのかなというまず疑問が一つであります。」

　これに対する佐々木毅座長（学習院大学法学部教授）の発言は、
　「時間の足りないことは誠に申し訳ないですが」
だけですが、このフォーラムでの議論のされ方を象徴している発言だと思います。



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