大阪府立和泉高校 校長中原徹氏の主張

　国歌斉唱の際の口元チェックについて、ご自身がブログで弁明されています。
　「国歌斉唱について」2012年3月14日配信

　ここではいろいろと弁明されていますが、結局、中原氏は何のために「民間人校長」になったのかが問われなければなりません。
　単純に外部から人を入れれば良いというものではないからです。

　今回の口元チェック騒動をみると、「君が代」斉唱に反抗的な教員を見つけ出し、処分（殲滅）することこそ、その使命だったのではないでしょうか。
　府立高校は、もともと経営という面などで、「民間人校長」が手腕（中原氏がそのような手腕があるとも思えませんが。）を発揮する場面などありませんから、橋下氏の指令に忠実に従い、反抗的な教員を殲滅し、その他の教員に対しても、反抗したらこのようになるんだぞ、ということを示す、ということに存在意義があるのでしょう。
　この和泉高校で、反抗的な教員を殲滅したあとは、また別の反抗的な教員がいる高校へと赴任していく、ということなのでしょう。

　従って、中原氏は、橋下氏の忠実に従っているだけの存在にしか見えませんが、
　ご自身は、「橋下の犬め！」という批判に対し、
　ブログ上では、そんなことはない、意見を言うときには言っているという趣旨の反論をしていますが、そこで紹介されているのが、
「橋下市長の知事時代に民間人校長として採用された弁護士出身の中原徹校長（府立和泉高校）が、12年2月12日付の朝日新聞（大阪版）に、次のように答えた部分が紙面に載っている。《「受益者の意見を聞き問題の改善点を探ることは大切だ」と評価する。だが実効性ある制度にするには「さじ加減が難しい」。簡素な制度にすれば、一時的な感情や好き嫌いで多数の苦情が来る。証拠を集めるなど申し立てのハードルを上げると「面倒だから」と口を閉ざしかねない。「校長が受益者の意見を聞きながらじっくり教員を見て評価するのが合理的では」》」
　の部分。
　しかし、これは、どうみても、橋下氏にたてついたという次元のものではありません。
　特に、公務員（教員）バッシングの手段である「君が代」に関しては、これまでにない方法、口元のチェックまでやり始めたことは、まさに橋下氏のやろうとしていることに忠実と言われても当然のことです。

　特に中原氏のブログ上の意見は、
「一旦法（条例）で決まり、しかも職務命令が出されたら守らなければならないと思います。」
　ということに尽きます。それが府民の意思なんだからということです。
　しかし、法曹資格者（弁護士は登録抹消中のようです。プロフィールに「前」とあります。）でありながら、それよりも上位規範にある憲法についての視点が一切、ないところが驚きです。
　公務員は憲法尊重義務（99条）がありますが、それと国旗（日の丸）を掲揚したり、国歌（君が代）を斉唱することを義務づけられることなど、導かれようはずもなく、決まったことだから当然などと言えようはずもありません。
　また最高裁判決は、起立に関する業務命令も適法とし、戒告処分を是認しましたが（これ自体、不当判決と思いますが。）、それでも、累積処分による減給などは否定していることからしても、起立以上に強権的なやり方が是認される可能性はありません。
　それにもかかわらず、中原氏が、口元チェックにご熱心なのは、単純に橋下氏に忠実なだけだからです。

　私が、中原氏のブログで一番、許せないと思うのは、生徒からコメントに対し、
「このブログにも、卒業生から１件、在校生（と思われる人も含め）３件、残念であるとの趣旨のコメントをいただきました（保護者の方々かも数件コメントをいただいております）。これらのコメントについては、本当に申し訳なく思っています。また、コメントをわざわざ送ってくださらない保護者の方々の中にも、気分を害された人もおられるかと思います。この場をお借りして深くお詫び申し上げます。」

　自分が「口元チェック」をしておきながら、何に対するお詫びなのでしょうか。お詫びをするくらいなら、すべきでなかったことです。
　しかも、
「一斉にメディアによって報道され、何か政治的な展開になっているのは本当に残念ですが、」
　としゃあしゃあと述べていることが、厚顔無恥そのものでしょう。
　橋下氏の政治公約（「君が代」斉唱をしない教員の殲滅）を実現するために、「民間人校長」となり、そして、この間、行われてもいなかった「口元チェック」まで行っておきながら、今さら何が「政治的な展開になっているのは本当に残念」とは、よくも言えたものです。
　これまでも「君が代」斉唱については政治問題となっているものであり、しかも、反抗教員を殲滅するために送り込まれ、そして、それを実践しているのですから、それが政治的意味を持たないはずがなく、その認識もなく「口元チェック」をやっていたのであれば、よほどの無能です。
　処分問題が出れば、当然のことながら訴訟に発展することは、法曹資格者（「前」弁護士）であれば、予測がつかないはずがありませんが、このようなことをしゃあしゃあと述べるのは厚かましいにもほどがあります。

　もしかすると、中原氏のブログには、
　「他面、「君が代」には解釈やとらえ方において根深い相違があり、君が代を斉唱することに大きな抵抗をお持ちの方々がおられる事実も身をもって勉強させていただきました。」
　とあるので、そんな事実すらも知らなかったの、ということを述べていますが、中原氏は、訴訟で争われていることも知らなかったのでしょうか。
　中原氏は、いやしくも法曹資格者ですので、そこまで無知なはずがありませんが、要は、「謙虚さ」をアピールしたかっただけなのでしょう。
　見苦しい限りです。

「昨日の報道ステーションの報道は酷いものでした。古館さんは昔から尊敬する大好きなアナウンサーなのですが、その横にいたアナウンサーが「口元より生徒を見て」というようなコメントをしたときは怒りを覚えました。」
　と述べているところも、中原氏に怒りを覚える資格などありません。
　職務だからやっているのに！　という次元のものであれば、自分で、物議を醸すようなことをしているんですから、批判の対象になって当然なのです。
　しかも、
「校長は最前列で歌っていますので、生徒の顔は見れません。その代わりに、卒業生３５３人の名前が読み上げられる際に、ひとりひとりの顔を壇上から見て、別れを惜しみました。その後、式辞において伝えたいことを精一杯、約１５分間、生徒に伝えました。」
　というのは、問題のすり替えです。ここで述べて何の意味があるのでしょうか。生徒のことを考えているというアピールをしたかったのかもしれませんが、「君が代」問題とは関係がありません。

　ついでに中原氏の「読売新聞の記事について」についても意見を述べておきます。
　「長年大阪（日本といってもよいかも知れません）にはびこって来た「教職員だけはルールに従わず、わがままを言っても許されるのではないか」というある種の”因習”が今回のようなことにつながっているのではないかと思います。
　（略）上記の”因習”は絶対に是正する必要があります。生意気なことを言えば、「因習を憎んで、人を憎まず」です。この因習を是正するために、条例ができたのだと考えています。それを執行する教育委員会が、職務命令を出し、かつ、「斉唱」の確認方法についても指示を出しながら、肝心なところで「ちょっとやり過ぎだ」と梯子を外すようなことを言うのであれば、現場の人間としては「やりようがない」というのが偽らざるところです。」

　この部分が主張の骨子のようですが、他の職務命令で、ここまで政治問題になっているものがありますか？
　この職務命令の是非が問題になるのは、大きくはこの「日の丸」と「君が代」だけです。
　しかも、このようなものは、教育には全く必要がない。「日の丸」と「君が代」は、国家による「愛国教育」でしかありません。
　そこに敢えて、「日の丸」と「君が代」を教育現場に持ち込むことの是非については、この中原氏は全く言及がない。あるのは、決まったこと、それだけです。
　何故、そのようなルールが作られたのか、という視点が全く欠如した法曹資格者（「前」弁護士）も珍しいんじゃないかと思いますが、それを「幼稚園児」を持ち出し、
　「「先生はルールを無視してもよいが、君達はクラスの代議員や生徒会を通して決まったルールを無視してはダメだよ」という話は幼稚園児でも納得できない話です。」
というのは、滑稽な主張そのものです。
　中原氏は、幼稚園児に、どのように話をするのか、よくわかりませんが、幼稚園児に対して、ルールだから守れなんていう教育をするのでしょうか。
　「お友達を叩いたらダメですよ。叩かれたら痛いでしょ。」
中原氏なら、
　「お友達を叩いたらダメですよ。暴力行為として禁止されていますからね。」

　それはともかくとして、決まった内容、決めた過程というものが重要だということがこの中原氏はわかっていないようです。
　生徒会で決める場合には、生徒の間で討議をします。しかも決められる内容には限度もあります（生徒会で、「君が代」斉唱を決めたとしても、唱いたくない生徒に強制することができないのは当然のことです。ろくすっぽ議論もしないで、多数会派の意向によって採決してしまうこととも違います。）。
　そのよう過程を経て決まったことだから守ろうね、ということであって、「決まったことだから従え！」などという発想のものではありません。
　中原氏は、根本的に教育（心身を育てる）と法（強制の手段の部分）の世界の区別がついていないとしか言いようがなく、教育者としても失格といわざるを得ません。
　所詮は、外部から「君が代」を通して反抗的な教員を殲滅するためだけに送り込まれた「民間人校長」ですから、当然といえば当然なのです。



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