警察は、何故、被害届（告訴状）を受理したがらない？

　ＤＶ加害者が、女性の母親と祖母を殺害した事件で、千葉県警の対応が批判されています。
　被害届の提出を1週間、待ってくれと言い、その間にしていたことは北海道旅行だったということですから、その対応が批判されるのは当然です。

　ところで、警察に被害届や告訴状（告発状）を持参しても、なかなか受理しようとはしません。
　私も何度も経験があります。
　まず告訴状を受理せよ、しないの押し問答から入ることも珍しくありません。
　本来、警察では告訴状を受理すべき義務があるにもかかわらず、決して受理しようとはしないのです。
　もちろん、いくつかの理由が考えられます。
①告訴事実が犯罪ではない（但し、弁護士が告訴状を作成している場合に、告訴事実が犯罪を構成しないということはありません。）。
②告訴事実を立証するための証拠がない。

　①については、例えば、詐欺罪の場合、告訴事実自体では犯罪事実を構成しますが、欺罔の意思（詐欺の故意）ということになると、相手の主観であり、単なる債務不履行の場合もあります。
　こうなると警察は、最初から騙す意思はなかったのではないか、と告訴状を受理しないためにがんばるわけです。
　詐欺罪ということになると、確かにすべてが立件できるわけではありませんし、告訴者が、単に民事に利用しようとする場合もあるでしょうから、警察は消極的になりがちです。
　しかし、だからといって告訴状を受理しない理由にはなりません。
　②については、証拠が揃っていても受理したがらない場合もあります。
　しかし、そもそも証拠がすべて揃っていなければ受理しないというのも乱暴なことです。告訴する者に強制捜査権限はありません。警察の捜査がなければどうにもならない場合がほとんどです。
　それにもかかわらず、告訴状（被害届でもよい）を受理しないことは、まさに「泣き寝入り」を強いられることになります。

　しかし、今回の受理しなかった事件は、①でも②でもありません。
　むしろ、警察組織のやる気の問題です。
　事件によっては、告訴状を受理しないからといって、警察は全く捜査をしないということではありません。告訴状を受理しなくても（コピーだけを欲します。なので、私は予めコピーも用意していきます。）、ある程度の捜査は行います。全く何もしないわけではありません。事件として立件可能となると、告訴状を出してくれと言われることもあります。
　形式的だなと思うことはありますが、それでも尽力してやってくれているわけですから、告訴状を最初から受理しなかったことをもって不満を持つことはありません。

　しかし、実際に捜査に着手するかどうかという点で、警察の対応に不満というか、不安を覚えることがありますし、今回の事件はこれに当たります。
　ところで、「警察組織のやる気の問題」と述べましたが、これは組織の問題です。
　個々の警察官は、基本的には職務に熱心に取り組んでいます。
　強力な捜査権限があるから楽だろうと思う反面、結果を出すことも求められ、あるいは捜査に非協力なご時世のもと、大変な努力をされているだろうと思います。
　しかも、警察官の給与がそれに見合っているのだろうかという疑問もあります。
　昨今の公務員バッシングのもと、公務員の給料は引き下げられていますが、当然、警察官の給与も引き下げられています。
　見返りもないでは、ストレスもひどく溜まるでしょう。
　個々の警察官はまじめですが、他方で、このまじめさとストレスによって潰されてしまう警察官もいます。

北海道新聞（2012年3月22日）
「捜査書類６２件を放置　１件は立件不能に　札幌西署が１３人処分」
　札幌西署地域課の警察官１３人が、捜査書類を長期間にわたって放置するなどしたとして、道警は２２日までに、同課業務指導係長の男性警部補（６０）を停職１カ月の懲戒処分とし、２０～５０代の巡査部長ら１２人を本部長訓戒などの処分にした。
　道警監察官室によると、１３人は２００９年４月から１１年８月まで、窃盗や道交法違反事件など６２件分の捜査書類を、自宅に持ち帰ったり、署内のロッカーに入れるなどして放置していたという。うち、無免許運転の１件は書類の一部を紛失し、最終的に立件できなかった。」

　このきっかけとなったのは、昨年、豊平署でも同様のことがあり、監査が実施されたことにあります。
　このような現実を見るとき、個々の警察官の負担が大きくなりすぎてないかということです。
　このような場合、担当警察官が精神疾患に追いやられることになり、退職後に未済事件がたくさん、出てくるということにもなりかねません。

　千葉県警による事後の報告書で、旅行を承認していたことを隠していたということは論外ですが、問題なのは、当時、旅行を承認したのは、何故だったのか、という点です。
　常に緊張感を強いられ、そして、事件が持ち込まれる中、どの時点で休みをとったらよいのか、という環境だったのではないでしょうか。
　本来、警察官の抜本的な増員も必要でしょう。
　しかし、予算の都合もあるでしょうし、しかも単純に増員すると不適格な人材も一定数、流入してこざるを得なくなり（一時期、現職警察官の不祥事が多くなったとき、大量採用が問題だったような言われ方をしていたことがあります。とはいえ、最近も目立つようになったか？）、困ったことにもなります。
　実際には少ない人員で対応しなければならない状況の中で、どこで休みを取れるのかという思いになったのではないでしょうか。
　もちろん、その際、「この事件なんて後からでもいい。」という思いはあったかもしれません。
　しかし、それだけ批判したところで、警察組織の改善につながることはなく、かえって個々の警察官への負担を増大させ、もっと大きな弊害が生じかねないことになることを危惧せざるを得ません。

　実際の人材の確保が困難であるということと、低賃金のもとで現場にだけ責任を押しつけることになること、を考えると、現状のやり方そのものを見直す必要があります。



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