司法試験予備試験のあり方について 公明新聞の主張について

　現在、司法試験を受験するためには、法科大学院課程を修了しているか、司法試験予備試験に合格している必要があります。
　従来からの傾向ですが、司法試験合格者の中での予備試験合格者の割合は高くなっています。
　2022（令和4）年度の結果
　　合格者数　472人
　　　そのうち法科大学院生　124人
　　　　　　　　　大学生　　196人　　計320人

　この状況について公明新聞が主張でこの予備試験制度について見直しを要求しています。
「【公明新聞】主張 法曹養成の課題」（公明新聞2022年11月28日）
「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由により法科大学院を経由しない者にも法曹資格取得のための適切な途を確保すべき」
「これが政府の司法制度改革審議会「意見書」（２００１年６月）の予備試験の構想であるが、大学生や法科大学院生の受験までは想定されていない。」

「０４年スタートの法科大学院は、以前の一発試験型の司法試験を改め、法の理論と実務を架橋する新しい法学教育と司法試験を組み合わせることで“プロセス”としての法曹養成を確立することが目的である。今の予備試験の実情は、法科大学院離れとも見える。」

　上記の公明新聞の主張は一般的に言われていることですが、基本的な認識として誤りと言わざるを得ません。
　法科大学院制度の創設の経緯として、一般路としてプロセス重視ということが司法制度改革審議会意見書に記載されていることはそのとおりですが、同時に予備試験いついても記載されています。

　ただし、立法過程の中で「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由」が落ちました。
　これを司法試験予備試験の受験資格要件とすることは立法技術上不可能であり見送られたのです。受験資格は国家資格であり明確な基準が必要ですが、「経済的事情や既に実社会で十分な経験を積んでいるなどの理由」というものの基準化など不可能だからです。
　そのため予備試験に関しては当初から法科大学院制度を守れと主張する人たちからは廃止論が根強く主張されてきました。
　公明新聞の主張である「見直し」も恐らくは廃止を念頭においているものと思われます。
　この背景には法科大学院離れが顕著な傾向になっていることがあります。
　特に司法試験合格者を多数、排出している東大などを中心に、優秀層が途中で予備試験に合格し、そして司法試験にも合格することによって中途で抜けてしまう層が多くなり、法科大学院自体が成り立たなくなるという危機感がありました。
　これはあくまでそうした特性をもった特定の法科大学院の問題であり、例えばでいうのもなんですが、北海道大学の法科大学院ではそうした問題は生じません。
　これに危機感を持ち、導入されたのが法曹コースであり、在学中の受験の容認です。
　経済的、時間的負担が大きく、予備試験に流出した層を食いとどめるために従来6年（学部4年、法科大学院2年）としていたものを5年で終了させようということと、法科大学院課程修了後に受験、合格発表までに半年かかっていたものを受験資格を前倒しにしてそのロスも短縮させました。


2022年10月19日撮影


　果たしてそれは正しいのでしょうか。
　当時、この法曹コースや在学中受験を認める案については法科大学院制度を守れという主張する原理主義的な人たちから猛反対がありました。それは当然でしょう。プロセス重視とは無縁だからです。しかし、こうでもしないと予備試験への流出が食い止められない、それ自体が法科大学院制度の崩壊を招くという文科省の危機感がありました。背に腹はかえられないとなったわけです。
（もう1つの選択肢は予備試験の廃止は事実上困難（これを廃止したら法曹志望者そのものが激減する）であり、受験資格を25歳以上とするというように客観的基準により区切るという方法です。そうであれば廃止はしないが学生が予備試験に流出することが防げるというわけです。しかし、それでは事実上の予備試験の廃止であり、法曹離れにそのものにつながるのは同じです。）
　いずれにしても予備試験に手を出せない、というのが実情なのです。

　プロセス重視というのもこれはあくまで理念に過ぎません。
　従来の一発型司法試験に限界が来ていたことも事実です。しかし、だから法科大学院制度というのは飛躍がありました。これはあくまで司法試験合格者数を飛躍的に増加（当時の目標は年間3000人）させるためには単純に合格者数を上げるだけでは質の低下を招くことが必然であったため、その底上げのために法科大学院制度を創設となったという経緯があります。専門職大学院制度を推進してきた文科省の思惑とも重なりました。
　これはあくまで司法試験合格者数の大増員が目的であり、それ以上に特別の意義はありません。

　公明新聞の主張は次のように結んでいます。
「法科大学院を修了した法曹の評価は高い。法科大学院を中核とした法曹養成を支えていきたい。」

　これは明らかに主観的な評価でしかなく、法科大学院制度そのものを守らなければならない理由にはなっていません。
　公明新聞の主張では法科大学院制度を守るためのものにしかなっていません。
　一度、できた制度を変えることに困難はありますが、法科大学院制度は司法試験合格者数を増員させることとセットになって導入されたものです。
　既に法曹人口をさらに増加させなければならい状況は既になくなっています。
　制度そのものを見直すことが必要です。
　法曹養成制度の課題は、法曹志願者が激減してしまったことの原因がどこにあるのか、であって公明新聞が主張するように予備試験制度にあるわけでありません。本当の課題から目をそらすのは許されないことです。



ブログランキングに登録しています。
クリックをお願いいたします。

にほんブログ村

人気ブログランキングへ