バリアフリーのために名古屋城にエレベーターは必要か 差別論

　朝日新聞のこの記事ですが、エレベーター作るなは障害者差別なのか。
「障害者への差別発言相次ぐ　名古屋城復元めぐる市主催の討論会」（朝日新聞2023年6月3日）

　エレベーター設置に反対する人たちの発言について取り上げたものですが、差別用語を用いるというのは論外としてエレベーター設置に反対することが障害者差別なのかどうか。
　この場合、設置に反対することが差別なのであれば、必然的にエレベーターを設置しないこと自体が差別ということになります。
　名古屋城は36mの高さがあるので人力ではかなり大変です。エレベーターを設置せず「パワードスーツ」説もあるようです。城ですから中は狭く階段が急になっているのが普通です。
　札幌地裁滝川支部ですが、建て替えがされて10年以上になりましょうか（正確な時期は全く覚えていません）、エレベーターがありません。2階建てですが、職員の方に確認したらその場合は人力で2階に上げるということでした。予算的にもその方が安い、ということなのでしょう。そもそも支部裁判所の利用者が少なく、歩行困難者の利用はさらに少ないという事情のもと、予算の都合もあり、そうした判断になったのでしょう。

　名古屋城に関して日弁連から要望書が出されています。
「名古屋城天守閣にエレベーターの設置を求める人権救済申立事件（要望）」
　「再建する名古屋城天守閣にあえてエレベーターを設置しないということは、障がいのある人が平等に公共施設を利用し、天守閣を観覧したり、天守閣から城下の眺望を享受したりすることにおいて差別されない権利・利益を侵害しており、現にエレベーターを利用して天守閣に昇降することが保障されていた障がいのある人を合理的な理由なく差別することになる」
　この要望書が発出されるまでには種々の意見があったようで、人権救済の申立があり当初案は「勧告」だったようですが、それが「要望」になりました。
　設置しないことが強い差別になるのであれば「勧告」でなければならないはずですが、私もそれには違和感があります。
　朝日新聞の記事は差別だという観点からだけでまとめていますが、その姿勢はどうなのでしょうか。
　参加者の発言です。
「河村市長が作りたいというのはエレベーターも電気もない時代に作ったものを再構築するって話なんですよ。その時になぜバリアフリーの話がでるのかなっていうのは荒唐無稽で。どこまでずうずうしいのかっていう話で。我慢せえよって話なんですよ。お前が我慢せえよ。エレベーターを付けるなら再構築する意味がない」

「エレベーターは誰がメンテナンスするの。どの税金でメンテナンスするの。その税金はもったいないと思うけどね。毎月毎月メンテナンスしないといけない。本当の木造を作って」

　河村市長もそうですが、木造での「忠実」な再現ということのようで、そこには右翼臭が漂っています。
　予算という問題以外の要素が入っているから差別なのか、忠実な再現などできるのか、そもそも木造での名古屋城再現計画自体が荒唐無稽なのか、など整理すべき論点は1つではありません。
「名古屋城の木造復元計画はなぜ行き詰まっているのか？」（PAGE2019年12月10日）

　障害者差別だという言い方で良いのかどうか、私は考えてしまうところです。
　朝日新聞の記事の表題をみたとき、これ「差別」の問題なのかという違和感と、発言者の発言内容はどうみても右翼臭が充満しているからです。
　確かに「忠実」な再現と外観は忠実でも中身が鉄筋コンクリートのビルでは意味合いは違います。3月に岡山を訪れましたが、そのとき地元の方から岡山城は見る価値ない、あれは単なる鉄筋コンクリートということを言われました。地元からみるとそんな感覚になるんだなというのは妙に納得しました。お城の形をした博物館です。
　そうなってくると現在、既に復元された名古屋城があるにもかかわらず（それを壊して）別途、木造で忠実に再現する名古屋城の建築の当否の問題になるようにも思えます。
　実際、どこまで「忠実」に再現できるのかという根本的な疑問もあります。結局、資料としては外観の写真しかないんでしょうから、最初から限界を抱えています。

岡山城

2023年3月10日撮影


　聴覚障害をもつろう児の授業が日本手話で受けることができない、現在、北海道（道教委、札幌聾学校）に対して訴訟提起をしています。憲法で保障された学習権の侵害という主張ですが、差別論は基軸にはしていません。
　札幌聾学校では日本手話を提供するということを道教委も言ってきたし、実際に教員さえ確保すればできる体制であるにも関わらず意図的にこれを怠っているのが道教委なのですが、だからこそ学習権の侵害という主張です。
　離島でろう児が日本手話で授業を受けられなかったから差別になるのかということです。もちろん学習権の保障としては不十分なのは明らかです。そういった学習権の保障がどこまで可能なのか、どうしたら充足することができるのかということで考えるよりありません。
　それは「差別」だといって糾弾する性質のものではないでしょう。

　名古屋城問題でいえば、学校教育の場とは異なり、名古屋城自体は単純な公共スペースです。それに城の再現という特殊性が加わります。そこでの差別論がどのように位置づけられるのかよくよく検討すべきものではないか、そもそもこの荒唐無稽な再現計画自体の当否の問題ではないのか、問題の所在を整理すべきではないかと思います。



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