徳岡宏一朗弁護士の即時停戦論批判の誤り その１

　このブログでもたびたびご紹介する白井邦彦先生の論考ですが、徳岡弁護士のブログにも掲載されています。少々、古くなりますが。
「【白井邦彦青山学院大学教授　特別寄稿】　再度「即時停戦・和平交渉による解決」を強く訴えます ー「今こそ停戦を」に賛同する一市民の立場からー」

　この中で徳岡氏は白井先生の論考に先立ち、冒頭に即時停戦論批判を展開しています。しかし、極めて問題のある主張です。量が多いので分けて論じます。

１　ロシアの侵略が国連憲章違反の国際法違反行為で、これまでの１世紀の戦争の違法化の歴史を台無しにするもので、戦争の責任はひとえにロシアにあること

　前提としてロシアが一方的にウクライナへの軍事侵攻を開始した、それが国際法違反の行為であることについて、即時停戦論者の中で否定する者はいません。ときたま鈴木宗男氏のように親ロ感情が露骨な人がいますが、例外中の例外です。
　その意味ではここは争点ではありません。

２　現状で即時停戦をすると、ロシア軍による占領地での虐殺・強姦・子どもの連れ去りなどの戦争犯罪行為がし放題になってしまうこと

　停戦合意をするとロシアの戦争犯罪が曖昧になるという意味ですか。
　そんなことは、これまでもイラク戦争やベトナム戦争などいくらでもありましたが、今回のロシアの行為を特に問題にするのは何故でしょうか。
　ご自身は問題にしていたと主張されるのでしょうが、それ自体は意味がありません。同じような意味で「し放題」になっていたのですから。
　それで即時停戦をしないで何を目的とするのかが不明です。
　ウクライナ領内からロシア軍の駆逐というのでしょうが、それを戦争犯罪の「し放題」との関連性が不明確です。
　最終的には米軍はイラクからの撤退を余儀なくされました。アフガニスタンでもそうですが、米国は戦争犯罪に問われていませんし、撤退とは関連性はないのですが、徳岡氏はこれを無理やり結びつけてしまっています。
　即時停戦反対の理由にはなり得ないものです。
　もしロシアの戦争犯罪を追求するということになれば、モスクワを陥落させ、ロシアを無条件降伏させる以外には方法はありません。
　そのような選択肢は絶対にあり得ないし（米国・NATOがロシア領内への攻撃は自国供与武器でさせないとしているし、参戦もしないとしている）、にも関わらずその戦争犯罪を理由にするのは議論のすり替えということです。


2023年3月10日撮影

３　２０２２年９月のロシアによる４州併合はハーグ陸戦法規などに違反していて国際法違反で無効であるのに、現状で停戦すると４州併合が既成事実化すること

　即時停戦はあくまで停戦にすぎません。その後のロシアを含めた欧州全体の安全保障の枠組みの中で議論される問題です。
　即時停戦に反対するのは要は軍事力でロシア軍を駆逐せよというのですが、戦闘を継続して武力によってロシアから4州を奪還できると思っていること自体がどうなのかと思います。米国・NATOも軍事介入しないと宣言しているのですが、実際にはそこで勝敗は決まってしまったのと同じです。
　ロシアは昨年秋には弾薬が枯渇するという報道もありましたが、結局、西側情報は誤りでしたが、そうした情報に踊らされているようにしか見えません。
　むしろ、その間、多くの死傷者が出ることをどのように考えているのでしょうか。

４　特に、２０２０年にロシアは憲法と刑法を改正して、領土割譲を違憲として禁止し、領土割譲の交渉をするだけで刑罰を科することにしたので、即時停戦して交渉してもロシアの領土となった４州は法理的にロシアがウクライナに返せないようにロシアがしてしまっていること

　これ、全く論拠になりません。即時停戦後の領土問題もその後の停戦後の協議によって決まります。ロシア憲法が割譲を禁止しているからというだけの理由で決まるものではありません。
　だったらロシアは譲歩しないだろ。
というのであればそれはあり得るとは思いますが、ロシア憲法の問題ではありません。
　ロシアの安全保障の枠組みをどのように作るのか、民族自決権をどのように実現するのかなどの問題を解決する必要があります。
　停戦がなければこうしたことも解決しないことになってしまいます。



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