医学部の志願者増と法科大学院の志願者減
- 2012/12/23
- 00:06
法科大学院を志望する人は、激減しています。日本各地にある法科大学院の多くは定員割れの状態になっています。
2012年の時点でも、総定員4484名に対し、実入学者数は3150名であり、充足率は70.2%です。
司法試験合格率が低迷している法科大学院では、入学者数が1桁というところも少なくありません。
さらには、入学はしたものの途中で、退学していく学生も決して少なくはありません。
今年の修習修了者のうち、任官組を除いた中で、弁護士に登録しなかった者がおよそ540名になり、過去最高を更新したとなっています。
翌年1月に登録する者もありますから、この数字がすべて登録見送りということにはなりませんが、少なくとも過去最高を更新したということは、それだけ新規登録弁護士の就職状況が厳しくなっているということです。
このような状況でも、なお法科大学院を目指す者が皆無にならないのが不思議ですが、今年の予備試験合格者が200名を超えたことから、今後は、さらに法科大学院志望者は激減していくことでしょう。
法科大学院志望者が激減している理由ははっきりしています。
①1000万円にもなる高コスト。
②結果が出るまでに法科大学院に2~3年、司法試験合格まで半年~2年半、司法修習1年、そのどこかで落伍するかもしれないという高リスク。
③高コスト、長期間を掛けても法曹として収入を得られる見込みのない高リスク。
一番の理由は③でしょう。コストに見合う収入が全く見込めないところに人が集まってくるわけがありません。
それに比べて、医学部の人気が高まっているそうです。
「医学部受験は千差万別、子どもの願いをかなえるためには」(時事通信)
非常に興味深い記事になっています。
医学部の総定員は増加しているにもかかわらず、医学部志望者は増え、かえって医学部の難易度は上がっているというものです。
「ある予備校関係者は、「1970年代あたりは、偏差値50台でもお金があれば私立大学医学部に入れたかもしれないが、今はそんなことは絶対にない。自分が受験した当時よりも医学部入試は格段に難しいということを理解できていない保護者がいる」ともらす。」
医学部の人気については、下記のように述べられています。
「不況など社会的事情が挙げられる。不況になると専門的資格が必要な職業に人気が集まるのが常だが、最近は弁護士や公認会計士などの代表的な資格職業でも「営業力」がなければやっていけないほど厳しいというのは周知の事実だ。その中で医師は、資格さえ持っていれば比較的に安定した高所得が得られる職業として注目を集めている。」
弁護士や公認会計士に対する認識は非常に正確です。高校生などが法学部を敬遠し、ましてや法科大学院を敬遠するのは当たり前なのです。
しかし、医師という資格は、本当に食える資格なのかという点は、本当は考えるべきものです。
医師不足が言われていますが、基本的には、地方の勤務医であったり、小児科医、産婦人科医ですが、勤務が激務であるにもかかわらず、医療過誤の責任を追及されたり非常にリスクが高いということが特徴です。
医師ですから、絶えず患者の生命・身体の危険と隣り合わせです。ストレスはかなりのものでしょう。
厚労省が医師不足かどうかを調査したというのは、勤務医が不足しているかどうかなどという調査であり、それを単純に足したものが不足する医師数だなどという次元のものです。
「医師、2万4千人も不足?」
医師資格さえあれば、食うに困らないだろうと考えている志望者は、どこまで医師の実態を把握した上で志望しているのでしょうか。激務を覚悟した上での志望でしょうか。
ところで、私はもう1つ気になるものがあります。
医学部の難易度が上がっているという点です。志望者が増えれば競争が生じますから、難易度は上がるでしょう。しかし、それがどの程度のものなのか、という点です。
しかし、「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」論点整理に関する意見募集の実施について」(2012年1月、文部科学省)の中の論点整理の中には、以下のような意見が付されています。
「多くの医学部の6 年次の時間の大半が、医師国家試験の対策に費やされ臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現状を考慮し、6 年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。」(8ページ)
それ以外に地域枠による選抜の問題もあります。
「医師「不足」と医学部の定員増と新設」
どうみても、医学部の現場では、学生の学力低下が共通認識になっているようにしか見えません。
医学部の難易度が上がっているということと矛盾していますが、どのように理解したらよいのか。
私自身は、この点は推測でしか述べられませんが、高校生全体の学力が低下していること、医学部間の格差が大きく、上位校は問題がないが、下位校での学力低下が顕著、などが考えられます。
いずれにせよ、志望者が増えている医学部と、志望者が激減した法科大学院。
この差が示すものは、資格取得後の「安定」であることは間違いありません(医学部志望者がどこまで覚悟を決めているかはわかりませんが。)。
医師も弁護士も、それぞれの領域の専門職として養成されているのであり、単なるビジネス資格ではありません。ビジネスとして一発、当てるための資格ではなく、リスクを前提に取得する資格ではないということです。
専門職に関する能力があれば、あとは常識的な経営ができればよく、それ以上に他を出し抜いてでも顧客を獲得し、などというビジネスに長けている必要はありません。
弁護士の職業としての経済事情がひどく、ビジネスとして成功しなければ食えないということになれば、志望者が激減するのも当然のことです。
これでは、単なるビジネス資格として、一発、当てることばかりの意識しかないような人ばかりしか集まってこなくなります。
司法の担い手がビジネス志向ばかりであったり、志望者の激減の元では、司法制度そのものが崩壊します。
「法科大学院の統廃合では、法曹制度の危機的状況は改善できない」
少なくとも法科大学院課程修了を司法試験受験資格から外す、この程度の改革を緊急に行うことが必要です。
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2012年の時点でも、総定員4484名に対し、実入学者数は3150名であり、充足率は70.2%です。
司法試験合格率が低迷している法科大学院では、入学者数が1桁というところも少なくありません。
さらには、入学はしたものの途中で、退学していく学生も決して少なくはありません。
今年の修習修了者のうち、任官組を除いた中で、弁護士に登録しなかった者がおよそ540名になり、過去最高を更新したとなっています。
翌年1月に登録する者もありますから、この数字がすべて登録見送りということにはなりませんが、少なくとも過去最高を更新したということは、それだけ新規登録弁護士の就職状況が厳しくなっているということです。
このような状況でも、なお法科大学院を目指す者が皆無にならないのが不思議ですが、今年の予備試験合格者が200名を超えたことから、今後は、さらに法科大学院志望者は激減していくことでしょう。
法科大学院志望者が激減している理由ははっきりしています。
①1000万円にもなる高コスト。
②結果が出るまでに法科大学院に2~3年、司法試験合格まで半年~2年半、司法修習1年、そのどこかで落伍するかもしれないという高リスク。
③高コスト、長期間を掛けても法曹として収入を得られる見込みのない高リスク。
一番の理由は③でしょう。コストに見合う収入が全く見込めないところに人が集まってくるわけがありません。
それに比べて、医学部の人気が高まっているそうです。
「医学部受験は千差万別、子どもの願いをかなえるためには」(時事通信)
非常に興味深い記事になっています。
医学部の総定員は増加しているにもかかわらず、医学部志望者は増え、かえって医学部の難易度は上がっているというものです。
「ある予備校関係者は、「1970年代あたりは、偏差値50台でもお金があれば私立大学医学部に入れたかもしれないが、今はそんなことは絶対にない。自分が受験した当時よりも医学部入試は格段に難しいということを理解できていない保護者がいる」ともらす。」
医学部の人気については、下記のように述べられています。
「不況など社会的事情が挙げられる。不況になると専門的資格が必要な職業に人気が集まるのが常だが、最近は弁護士や公認会計士などの代表的な資格職業でも「営業力」がなければやっていけないほど厳しいというのは周知の事実だ。その中で医師は、資格さえ持っていれば比較的に安定した高所得が得られる職業として注目を集めている。」
弁護士や公認会計士に対する認識は非常に正確です。高校生などが法学部を敬遠し、ましてや法科大学院を敬遠するのは当たり前なのです。
しかし、医師という資格は、本当に食える資格なのかという点は、本当は考えるべきものです。
医師不足が言われていますが、基本的には、地方の勤務医であったり、小児科医、産婦人科医ですが、勤務が激務であるにもかかわらず、医療過誤の責任を追及されたり非常にリスクが高いということが特徴です。
医師ですから、絶えず患者の生命・身体の危険と隣り合わせです。ストレスはかなりのものでしょう。
厚労省が医師不足かどうかを調査したというのは、勤務医が不足しているかどうかなどという調査であり、それを単純に足したものが不足する医師数だなどという次元のものです。
「医師、2万4千人も不足?」
医師資格さえあれば、食うに困らないだろうと考えている志望者は、どこまで医師の実態を把握した上で志望しているのでしょうか。激務を覚悟した上での志望でしょうか。
ところで、私はもう1つ気になるものがあります。
医学部の難易度が上がっているという点です。志望者が増えれば競争が生じますから、難易度は上がるでしょう。しかし、それがどの程度のものなのか、という点です。
しかし、「今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」論点整理に関する意見募集の実施について」(2012年1月、文部科学省)の中の論点整理の中には、以下のような意見が付されています。
「多くの医学部の6 年次の時間の大半が、医師国家試験の対策に費やされ臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現状を考慮し、6 年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。」(8ページ)
それ以外に地域枠による選抜の問題もあります。
「医師「不足」と医学部の定員増と新設」
どうみても、医学部の現場では、学生の学力低下が共通認識になっているようにしか見えません。
医学部の難易度が上がっているということと矛盾していますが、どのように理解したらよいのか。
私自身は、この点は推測でしか述べられませんが、高校生全体の学力が低下していること、医学部間の格差が大きく、上位校は問題がないが、下位校での学力低下が顕著、などが考えられます。
いずれにせよ、志望者が増えている医学部と、志望者が激減した法科大学院。
この差が示すものは、資格取得後の「安定」であることは間違いありません(医学部志望者がどこまで覚悟を決めているかはわかりませんが。)。
医師も弁護士も、それぞれの領域の専門職として養成されているのであり、単なるビジネス資格ではありません。ビジネスとして一発、当てるための資格ではなく、リスクを前提に取得する資格ではないということです。
専門職に関する能力があれば、あとは常識的な経営ができればよく、それ以上に他を出し抜いてでも顧客を獲得し、などというビジネスに長けている必要はありません。
弁護士の職業としての経済事情がひどく、ビジネスとして成功しなければ食えないということになれば、志望者が激減するのも当然のことです。
これでは、単なるビジネス資格として、一発、当てることばかりの意識しかないような人ばかりしか集まってこなくなります。
司法の担い手がビジネス志向ばかりであったり、志望者の激減の元では、司法制度そのものが崩壊します。
「法科大学院の統廃合では、法曹制度の危機的状況は改善できない」
少なくとも法科大学院課程修了を司法試験受験資格から外す、この程度の改革を緊急に行うことが必要です。
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