法科大学院 適正配置を考慮した統廃合・定員削減は可能か
- 2013/03/02
- 23:18
現在、法科大学院は全国で74校あり、そのうち、既に5校が閉校ないし他校との統合を決めています。
入学者数は毎年、確実に減少しています。今年度は3,150名でしたが、今年はさらに減少することでしょう。
今年度の総定員は4,484名でしたが、閉校を決めた法科大学院がありますから、来年度の定員は、4,311名です(さらに定員削減を決めた立命館大学法科大学院がありますから、実際にはもう少し、減少しています。)。
法曹志望者の激減は、法曹界にとって極めて危機的状況となっており、これは法科大学院信奉者たちも含め、共通認識となっています。
志望者激減の原因の1つは、資格取得後の弁護士という職業がもはや経済的に成り立たなくなっているからです。
弁護士という職業自体が成り立たたせるためには司法試験年間合格者数を少なくとも1,000人にまで減員しなければなりませんが(1,000人でも実は厳しいのが実情ですが。)、法曹志望者離れに歯止めを掛けるための最低限の条件です。
ところが、司法試験年間合格者数を1,000人にまで減らしてしまうと法科大学院の経営が成り立ちません。
だから、法科大学院制度の信奉者たちは、合格者数の削減に反対しているのです。
「西山芳喜教授の放言」
「奥島孝康氏のデタラメを許してはならない」
「全市町村に弁護士が必要なのか」(青山善充氏)
司法試験合格者数1,000人にした場合、司法試験合格率を7~8割とするならば、法科大学院の総定員数は1,000名強となります。
その1,000名強とした場合、現在の法科大学院制度を維持するためには、どのように統廃合し、各校の定員を削減しなければならないのか。
その統廃合にあたっては、日本全国での適正配置を考慮することも要請されていますが、これを具体的に示さなければなりません。
先日、札幌弁護士会では、法曹養成制度をめぐって会員懇談会が開催されました。
「極めて残念だった会員懇談会での法科大学院信奉者たちの発言」
本当にそのような統廃合・定員削減が可能なのかどうか、決議案説明のために配布された資料が以下のシミュレーションです。
札幌弁護士会シミュレーション(PDF)
平成24年度の合格率を上位校から並べ、各校の定員数を順次、足していくと、中央の黒枠で囲んだ青色をつけた部分、つまり愛知法科大学院までしか残らないというものです。
これでは首都圏にしか法科大学院は残りません。
そこで、適正配置に配慮し、拠点となる法科大学院をピックアップし、それを残すという前提で、上位の大規模校の定員を削減するというシミュレーションが行われました。
拠点校 北海道大学、東北大学、名古屋大学、九州大学、広島大学、島根大学、香川大学、金沢大学
(なお、拠点校は、ある意味、どこの大学でもよいのです。そのブロックごとに定員をどのくらいにするのかという問題に過ぎないからです。)
定員削減にあたっては、最低20名とされています。それ以下では経営も授業も成り立たなくなるからです。
そうなると、シミュレーションの中で数字の入っていない法科大学院は軒並み統廃合の対象となります。黄色に塗られた法科大学院は、首都圏の大規模校ですが、このような法科大学院も統廃合の対象となるということです。
統廃合の対象にはならない首都圏の大規模校も、定員を4~5割は削減しなければならないことになります。
なお、このシミュレーションでは予備試験組からの参入を考慮していません。
今年の予備試験合格者が200人強ですから、この数字が加わるとなると、法科大学院の総定員は5~6割を減員する必要が出てきます。
(そのような場合の対案としては予備試験の廃止ということになると思います。)
ところで、このシミュレーションについては、法科大学院課程の中で修了できない学生を考慮していないという批判も考えられるところです。
日弁連では、7割程度しか修了できないという前提に立っています。
しかし、そのような7割程度しか修了できないという前提を用いることは正しいのでしょうか。
厳格な成績評価と修了認定という政策からは、それだけ多くの落伍者が出ても当然ということになりますが、しかし、そのように途中で「落伍」させられてしまうような法科大学院制度が機能するとは思われません。
もともと司法試験合格率の低迷も法科大学院志望者の激減の1つの根拠として言われていましたが、法科大学院信奉者たちは、この司法試験合格率の低迷こそ志望者激減の最大の原因と主張していたのです。
ところが、途中で「落伍」させられるとなると、それによって司法試験合格率はある程度は上昇するでしょうが(要は、司法試験に合格できる見込みのない学生は修了させない。)、しかし、入学を考える者にとっては、修了者の合格率ではなく、入学者数を前提にした合格率こそが重要なのです。
従って、7割程度しか修了できないような制度設計では法科大学院を志す者を回復することはできません。入試での選抜が機能していないということの裏返しでもあり、入学させるのは単なる入学金、授業料詐欺とも言われかねません。
このように法科大学院信奉者たちの主張は自己矛盾を内包しているのですが、仮に百歩譲って、7割程度しか修了できないことを前提にしたとしても、2割の定員削減が必要であり(既に廃校となった以外に52校を廃校とする)、これでも法科大学院制度が成り立つとは思われません。
さらには、以上は3回の受験を認めるという前提にも立っておらず、あくまでも単年度で7割程度の合格率を確保しているだけです。3回までの受験を認めれば合格率は5割を切ります。
シミュレーションのようなドラスティックな統廃合・定数削減を行っても、このような状態です。
首都圏の大規模校の統廃合など実現が可能とは思われません。
これで法科大学院制度を維持できようはずがないのです。
だからこそ、法科大学院側は司法試験合格者数の削減に反対するのです。
ところが、弁護士会内では、法科大学院信奉者たちは、一切、具体的なシミュレーションを示しません。法科大学院関係者とは異なり、司法試験合格者数を2,000人に設定することができないからです。
日弁連の「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」が全くもって具体性がないと言われているのは、制度を生き残らせる道筋がなく、抽象的な統廃合と定員削減と単にカネ寄こせと言っているだけであり、それ以上のことは口が裂けても言えないからなのです。
「日弁連による「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」」
会員懇談会では決議案について資料を使った説明があり、それに対して法科大学院支援委員会委員長が、反対意見を述べていましたが、「さきほどのように数字を分析したわけではないが」などと言うレベルのものでした。
このようなシミュレーションをすれば、はっきりします。
法科大学院制度は、司法試験合格者数を2,000人以上なければ成り立たない制度。
裏を返せば、法科大学院課程修了を受験要件としている限り、司法試験合格者数を減員できない足かせになっているということ。
だからこそ、司法試験合格者数を減員するためには、法科大学院から司法試験受験資格を切り離すことが不可欠の大前提になります。
日弁連が具体的な大学名を上げての統廃合など主張できるはずもないのですが、ここは平等に受験資格を撤廃することが穏当なのです。
※この分析が恣意的だという方がいれば、是非、ご自身の恣意的でないシミュレーションを披露してください。
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入学者数は毎年、確実に減少しています。今年度は3,150名でしたが、今年はさらに減少することでしょう。
今年度の総定員は4,484名でしたが、閉校を決めた法科大学院がありますから、来年度の定員は、4,311名です(さらに定員削減を決めた立命館大学法科大学院がありますから、実際にはもう少し、減少しています。)。
法曹志望者の激減は、法曹界にとって極めて危機的状況となっており、これは法科大学院信奉者たちも含め、共通認識となっています。
志望者激減の原因の1つは、資格取得後の弁護士という職業がもはや経済的に成り立たなくなっているからです。
弁護士という職業自体が成り立たたせるためには司法試験年間合格者数を少なくとも1,000人にまで減員しなければなりませんが(1,000人でも実は厳しいのが実情ですが。)、法曹志望者離れに歯止めを掛けるための最低限の条件です。
ところが、司法試験年間合格者数を1,000人にまで減らしてしまうと法科大学院の経営が成り立ちません。
だから、法科大学院制度の信奉者たちは、合格者数の削減に反対しているのです。
「西山芳喜教授の放言」
「奥島孝康氏のデタラメを許してはならない」
「全市町村に弁護士が必要なのか」(青山善充氏)
司法試験合格者数1,000人にした場合、司法試験合格率を7~8割とするならば、法科大学院の総定員数は1,000名強となります。
その1,000名強とした場合、現在の法科大学院制度を維持するためには、どのように統廃合し、各校の定員を削減しなければならないのか。
その統廃合にあたっては、日本全国での適正配置を考慮することも要請されていますが、これを具体的に示さなければなりません。
先日、札幌弁護士会では、法曹養成制度をめぐって会員懇談会が開催されました。
「極めて残念だった会員懇談会での法科大学院信奉者たちの発言」
本当にそのような統廃合・定員削減が可能なのかどうか、決議案説明のために配布された資料が以下のシミュレーションです。
札幌弁護士会シミュレーション(PDF)
平成24年度の合格率を上位校から並べ、各校の定員数を順次、足していくと、中央の黒枠で囲んだ青色をつけた部分、つまり愛知法科大学院までしか残らないというものです。
これでは首都圏にしか法科大学院は残りません。
そこで、適正配置に配慮し、拠点となる法科大学院をピックアップし、それを残すという前提で、上位の大規模校の定員を削減するというシミュレーションが行われました。
拠点校 北海道大学、東北大学、名古屋大学、九州大学、広島大学、島根大学、香川大学、金沢大学
(なお、拠点校は、ある意味、どこの大学でもよいのです。そのブロックごとに定員をどのくらいにするのかという問題に過ぎないからです。)
定員削減にあたっては、最低20名とされています。それ以下では経営も授業も成り立たなくなるからです。
そうなると、シミュレーションの中で数字の入っていない法科大学院は軒並み統廃合の対象となります。黄色に塗られた法科大学院は、首都圏の大規模校ですが、このような法科大学院も統廃合の対象となるということです。
統廃合の対象にはならない首都圏の大規模校も、定員を4~5割は削減しなければならないことになります。
なお、このシミュレーションでは予備試験組からの参入を考慮していません。
今年の予備試験合格者が200人強ですから、この数字が加わるとなると、法科大学院の総定員は5~6割を減員する必要が出てきます。
(そのような場合の対案としては予備試験の廃止ということになると思います。)
ところで、このシミュレーションについては、法科大学院課程の中で修了できない学生を考慮していないという批判も考えられるところです。
日弁連では、7割程度しか修了できないという前提に立っています。
しかし、そのような7割程度しか修了できないという前提を用いることは正しいのでしょうか。
厳格な成績評価と修了認定という政策からは、それだけ多くの落伍者が出ても当然ということになりますが、しかし、そのように途中で「落伍」させられてしまうような法科大学院制度が機能するとは思われません。
もともと司法試験合格率の低迷も法科大学院志望者の激減の1つの根拠として言われていましたが、法科大学院信奉者たちは、この司法試験合格率の低迷こそ志望者激減の最大の原因と主張していたのです。
ところが、途中で「落伍」させられるとなると、それによって司法試験合格率はある程度は上昇するでしょうが(要は、司法試験に合格できる見込みのない学生は修了させない。)、しかし、入学を考える者にとっては、修了者の合格率ではなく、入学者数を前提にした合格率こそが重要なのです。
従って、7割程度しか修了できないような制度設計では法科大学院を志す者を回復することはできません。入試での選抜が機能していないということの裏返しでもあり、入学させるのは単なる入学金、授業料詐欺とも言われかねません。
このように法科大学院信奉者たちの主張は自己矛盾を内包しているのですが、仮に百歩譲って、7割程度しか修了できないことを前提にしたとしても、2割の定員削減が必要であり(既に廃校となった以外に52校を廃校とする)、これでも法科大学院制度が成り立つとは思われません。
さらには、以上は3回の受験を認めるという前提にも立っておらず、あくまでも単年度で7割程度の合格率を確保しているだけです。3回までの受験を認めれば合格率は5割を切ります。
シミュレーションのようなドラスティックな統廃合・定数削減を行っても、このような状態です。
首都圏の大規模校の統廃合など実現が可能とは思われません。
これで法科大学院制度を維持できようはずがないのです。
だからこそ、法科大学院側は司法試験合格者数の削減に反対するのです。
ところが、弁護士会内では、法科大学院信奉者たちは、一切、具体的なシミュレーションを示しません。法科大学院関係者とは異なり、司法試験合格者数を2,000人に設定することができないからです。
日弁連の「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」が全くもって具体性がないと言われているのは、制度を生き残らせる道筋がなく、抽象的な統廃合と定員削減と単にカネ寄こせと言っているだけであり、それ以上のことは口が裂けても言えないからなのです。
「日弁連による「法科大学院制度の改善に関する具体的提言」」
会員懇談会では決議案について資料を使った説明があり、それに対して法科大学院支援委員会委員長が、反対意見を述べていましたが、「さきほどのように数字を分析したわけではないが」などと言うレベルのものでした。
このようなシミュレーションをすれば、はっきりします。
法科大学院制度は、司法試験合格者数を2,000人以上なければ成り立たない制度。
裏を返せば、法科大学院課程修了を受験要件としている限り、司法試験合格者数を減員できない足かせになっているということ。
だからこそ、司法試験合格者数を減員するためには、法科大学院から司法試験受験資格を切り離すことが不可欠の大前提になります。
日弁連が具体的な大学名を上げての統廃合など主張できるはずもないのですが、ここは平等に受験資格を撤廃することが穏当なのです。
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