2011年3月の大震災以降、東北地方では医師不足という声が聞かれます。
医師不足だけでなく、医療体制そのものの脆弱さを露呈したともいえます。
震災前から過疎地域では医師不足などが言われていたことであり、決して震災だけが原因ではありません。
そして、この地方の医師不足の問題は決して、医師の全体の数が足りないからではありません。
ところが安倍総理が、東北地方に医学部の新設を指示したというのだから、滅茶苦茶です。
「
宮城と他県に隔たり 東北に医学部新設検討を首相指示」(河北新報2013年10月5日)
現状ですら毎年3500人から4500人の医師が増加しているのです。
それが都市部に集中することは当然の結末であり、しかも美容整形のような怪しげなものが少なくない中、「医師不足」という論理の立て方は明らかに誤りなのです。
これは「
医師の偏在」の問題です。
この医師の偏在の問題は何も地域だけのことではなく、診療科目、産婦人科や小児科の医師の不足という形で診療分野での偏在の問題でもあります。
「
今後の医学部入学定員の在り方等に関する検討会」論点整理に関する意見募集の実施について」(文部科学省、2011年12月)の中の
論点整理(PDF)では以下のように指摘されています。
「
新設・増員のいずれについても、医師の絶対数を増やすだけでは直ちに地域や診療科間の偏在の解消にはならず、増加した医師が偏在解消に寄与できるような仕組や方策を講じることは共通の課題である。」
参照
「
医師「不足」と医学部の定員増と新設」
「
医学部定員増は、医師不足を解消するのか」
医師会が反対しているのも当然のことです。もとより医師の増員では医師会ははっきりと利害関係がありますが、それはさておいたとしてもその主張は当然の内容です。
医師を養成するのに最低でも6年は医学部で学ばなければなりません。
それから一人前の医師になるためには国家試験合格後、研修医を経てさらに一人前になるための研鑽が必要です。
今回の医学部新設のスタートをいつの時点に設定しているのかはわかりませんが、少なくとも一人前の医師が誕生するのは10年後です。
これで医師不足解消という政策であるならば愚の骨頂です。
しかも問題なのは、その養成課程に教える人材を取られてしまうということです。
一線級の医師がそれに取られてしまうことになれば、現状の医師「不足」(というよりも偏在なのですが。)に拍車を掛けることになります。
それが私立大学(東北福祉大学が名乗りを上げているようです。)だとすると、もしかすると他の国立大学を定年退官した研究者をかき集めてくるのかもしれません。
この構図は、法科大学院でも問題になりました。特に下位低迷校の私立大学がこのような教員集めの仕方を行い、教える内容の水準を問題とされました。
それが一線級の医師であっても、実はそのような一線級の医師は数が多いわけではなく、本当にその一線級の医師に養成を委ねるのであれば、取り合いになるのか、その一線級の医師がパンクするかです。
医学部の定員を増やしたり、医学部を新設すれば医師が大量生産できるという発想が間違いです。

さらにいえば、東北(といっても仙台になるのでしょうけれど)で医学部を新設したとしても卒業した者が東北で勤務するとは限りません。勤務医が不足しているからといって、相応の報酬を払わなければ養成した医師は首都圏に戻るだけのことです。
だからといって地域枠を設けて優遇するのは、これまた三流の医師となるだけです。地域枠は、いってみれば学力がなくても地域枠で合格させるだけのことなのですから。
「
学力以外の要素での選抜」

また、医学部の新設は、定員の増員と同じですが、地域枠と同様に医学部の水準の低下をもたらすことも必至です。
前掲論点整理では、次のような指摘もありました。
「
多くの医学部の6 年次の時間の大半が、医師国家試験の対策に費やされ臨床実習が必ずしも十分でないと言われている現状を考慮し、6 年間の医学教育の効果を高め、特に後述する診療参加型臨床実習の充実など、各大学におけるカリキュラム改革が求められる。」(8ページ)

現実に医学部で授業についてこれない学生、学生の水準の低下が問題になっているのですが、入試という入口でしぼらないで入学させてしまってからカリキュラムで何とかなるというものとは思えず、これ以上の定員の増員はあり得ない選択肢と言わざるを得ません。
制度として、どのように勤務医を確保していくのかという視点が欠落してしまっているこの政策は必ずや失敗するであろうし、そればかりか全体としての医師過剰と、地域、診療科目の偏在は放置されたままという最悪の結末を迎えることでしょう。
目先のことだけで、医学部新設を約束する安倍総理、安っぽさが一段と際だつようになりました。
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