東京地裁が検察庁、弁護士会(東京三会)に対し、性犯罪の被害者が再び被害に遭うのを防ぐため、被害者名を被告人に教えないよう命令を出すという方策を提示したということです。
(朝日新聞2013年10月19日付)
この場合、被告人に送達される起訴状も被害者名は墨塗りになるということだと思いますが、これでは被告人は、どの犯罪について起訴され、刑事訴訟手続が行われているのか、認識できないということになり、被告人の防御の観点からは問題があります。
仮に、それが知り合いであったとしても、被告人は「知り合い」であることを知り得ないままということになり、その「わいせつ」行為に至った経緯(多くは同意の有無でしょう。)について防御ができないということにもなりかねません。
あるいは自分の別事件(余罪)と誤解したまま、的外れな防御となるかもしれません。
全く架空の謀略事件ということもあり得るでしょう。
これは弁護人にのみ氏名等を伝えれば済むという問題ではありません。
ところで、この命令がどのような意味を持つのか、訴訟法上の規定はありませんが、東京地裁は、現行法の枠内で可能と考えたとあります。
対比されているのが「証拠開示命令」。しかし、それに違反して検察官が証拠を開示しなければ、場合によってはその効果は疑わしきは被告人の利益にという原則から「無罪」という効果が導かれますが、この非開示の命令に違反した場合の「効果」が不明です。この場合、問題になるのは弁護人ですが、命令違反の効果として「有罪」になるということはないと思いますが、国選弁護人であれば解任、民事上の賠償義務(特に名前を知られたことによる精神的苦痛)という「効果」(その刑事訴訟手続上のものではありませんが)があるということでしょうか。
いずれにしても、このような「命令」には無理があるし、問題があります。
別事件では、東京地検が「異例の起訴取り消し」ということも報じられています(毎日新聞2013年10月18日)。
ここでは被害者側の意向だそうで、再び被害に遭うことを恐れたためとあります。
東京地裁の運用で一番、理解できないのは、再び同一の被告人によって性犯罪に遭うと想定されている点です。
情報を秘匿というのであれば、恐らく被告人とは面識がないという前提だと思われますが、特定の女性を狙ったというよりは、むしろ、それは不特定の女性を対象にした犯罪ではないか、要は、特定の人につきまとうというのが性犯罪の特徴とは思われないという点です。
わいせつや強姦の目的がその人に特定されているというのであれば、秘匿の意味は最初からないわけです。もちろん名前も所在(その人が普段、通るところなど)もわからないでその「人」を付け狙うことはあり得ることですが、一般的とは思われません。
性犯罪=また同じ被告人に付け狙われる
という構図がどうにも理解できません。性犯罪は再犯率が高いと言われていますが、その場合は強姦やわいせつの対象にする女性は「特定」の相手ではなく、誰でもいいということのように思います。
中には、「特定」の好みの女性をつけ狙って窓から侵入するという手口もありますが、この場合には被害者の所在地は特定されています。
むしろ、そのような「特定」の相手に意味があるのであればストーカーの範ちゅうで考えるべきものでしょう。
他方で、犯罪被害者が付け狙われるというのは性犯罪に限られません。
むしろ、本当に恐ろしいと思われるのは報復です。
大分、以前になりますが、札幌でも恐喝された女性が被害届を出し、その結果、被告人は実刑判決になりましたが、その女性が出所後の被告人に殺されるという事件がありました。非常に粘着質だと思います。
あるいは、暴力団関係者に被害に遭ったときに被害届をためらう人が少なくないのは、その人の出所後あるいは所属する暴力団からの報復を恐れているからです。だから泣き寝入りが多いとされるのです。
ストーカーも同様でしょう。別れ話の挙げ句に何故か「殺すしかない」ところまで思考の飛躍が甚だしいようですから、一番、恐ろしい報復といえます。
そういった視点から考えると、犯罪被害者による不安の多くは報復でありつきまとわれることなのですから、出所などにより被告人が自由の身になった後の対応こそが問われているということです。
これはストーカーによるつきまといが典型例なのですから、このような場合は、ある意味では最初から「知人」であり、名前を隠しても意味がありません。
しかも、一番、恐ろしいのは出所後です。一定期間が経過すれば刑期が終了し、自由の身になるからです。それはストーカーも同様です。三鷹で起きた殺人事件も、この前の段階で容疑者が逮捕され、有罪判決を受けたとしても早晩、刑期を終えて出てくるのです。
「逗子市ストーカー殺人の問題点は警察対応が悪かった?」
このような問題は、東京地裁のように刑事手続の中の問題で解決しうるような問題ではなく、またそうすべきではなく、事前、事後の安全をどのように確保していくのかと問題で考えなければならないと言えます。
そのような対策がない限り、暴力団犯罪やその他恐喝などの事件で、報復を恐れて被害届が出せなくなります。
またストーカー被害も根絶できません。
「
ストーカーに対する有効な対処はあるのか」
今回の東京地裁の対応は性犯罪の場合に矮小化してしまっており問題が残ります。
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